小説
宮田は最近になって母の面影を偲ぶことが増えた。ミョウジがそうさせた。宮田は、ミョウジの容貌や声色などの端々から母の面影を感じ取っていた。誰も気が付かない、誰も母の姿など覚えていない、宮田だけが色濃く覚えている。宮田はミョウジが何者なのか薄々勘付いていて、そしてそれはミョウジに近づけば近づくほど確信に変わっていく。

「宮田先生?どうかされました?」
「ああ、少し考え事をしていた」
「…もしかしてナマエさんのことですか?」

この村でもうミョウジのことを苗字で呼ぶ人間はいない。牧野ナマエ、それが今の名だ。牧野とミョウジの婚礼は求導師のものとは思えないほど速やかに行われ、つい先日にはミョウジの懐胎が確認された。婚礼のささやかであった理由は、神の花嫁が去年の冬に14歳を迎え半年以上が過ぎ、いつ御印が表れてもおかしくない時分であったからだ。

「なぜそう思う」
「だって司郎さん……ナマエさんとよく一緒にいるんですもの」

宮田医院の看護婦で、宮田の恋人の恩田美奈は不満気に言った。宮田は危惧していた厄介事の予感がして、溜息をつく。

「あの人は神代家の女中だ。あの家の往診に行けば必ず会う」
「でも夜にも会ってるじゃない」

なぜそれを、と胸の中でつぶやいた。しかし表情や雰囲気でそれが美奈には伝わったらしい、美奈はやっぱりと消え入りそうな声で言った。宮田は鎌をかけられたことに気付き舌を打つ。美奈は詰め寄るようにして宮田を責めた。

「…本当に求導師様の子どもなの?」

宮田は美奈の疑念を即座に否定しなかった、心当たりがあったからだ。宮田は美奈が言った通り、確かにミョウジと会っていた。

(200619 / )
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