小説
設楽と幼少時代の話@
ずっと不思議に思っていたことがある。

私は別段可愛いわけでもないし、目立っていたつもりは…桜井兄弟のおかげで悪目立ちは若干あったかもしれないけれど、設楽先輩の興味を惹くような人間ではなかったとだけは言い切れる。だと言うのに、思い返せば先輩は事ある毎に絡んできていた。もう気にしてないから別にいいけど、入学して初めて先輩が私に話かけてきた因縁的なあの日だってそう。桜井兄弟と知り合いみたいだったから、それで私も気にかけていた。ということだろうか。

「ずっと不思議だったんですけど、設楽先輩は何で私のこと知ってたんですか?」
「…は?」
「エッ…は?」
「お前、今までずっと知らずに俺と接していたのか?」
「言っている意味がよく……」
「…昔、一緒に遊んでいただろ」
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設楽と幼少時代の話A

男子とか女子とか、そういう区別がまだ曖昧な頃の話だ。

私とルカと琥一の3人きりの時は、秘密基地とか言って、例の伝説の教会で遊んでたけど、小学生の溜まり場は専ら公園だった。そこでは遊具や砂場で遊ぶこともあれば、広場でボール遊びをしたり、流行りのヒーローごっこなんかもやっていた。どこもかしこも砂が舞っててみんな砂塗れになって遊ぶ。

いつものように琥一とキャッチボールをしていたら、ルカが見たことのない子を引きつれてきた。…誰だろう。その子はやたらと小綺麗で、泥臭い公園とは無縁そうに見えた。あからさまに嫌そうな顔をしていて正直笑える。きっとルカに無理矢理引っ張られて来たんだろうな…。でも、ルカが友達連れてくるっていうのも何だか珍しいので放っておこう。

ボールを琥一へ投げた。琥一はそれをグローブにおさめてから後ろを振り返った。私が向こうを、琥一の後ろを不思議そうに見ていたから気になったのかもしれない。琥一とルカの友達の目が合った瞬間、事件は起こる。

「セイちゃんじゃねーか」
「ウワッ琥一ッ!うるさいッ!セイちゃんって言うな!!」
「セイちゃん」
「だーかーらー」
「おいルカ、セイちゃんメロンジェットに閉じ込めんぞ」

琥一は付けていたグローブにボールをはめ込んで、それごと地べたに置いた。私はわけが分からず、ただその場に立ち尽くしていたけど、そのセイちゃんと呼ばれた子の悲鳴が聞こえてきたので、私は急いで彼らのもとへ走っていったのだ。
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設楽と幼少時代の話B
あの日以来、セイちゃんはしょっちゅうルカか琥一に引っ張られて、遊びに来るようになった。3回に2回は泣かされてるのによく来るなァと思う。

「ルカがレッドで、琥一がブラックでしょ。セイちゃん何がいい?ピンク?」
「ハァ?!何でわざわざピンクなんだよ!」
「私はイエローでもやろうかな」
「聞けよ!ていうか女はお姫様役じゃないのか?」
「え?」

セイちゃんそもそもヒーローごっこを分かってない!守られるのは市民で、お姫様とかがいるわけじゃないんだよ。

「ナマエがピンク。ナマエは強いから」
「ルカ……じゃあセイちゃんはどうすんの?」
「セイちゃんは…敵」
「ハッ…!」
「ワタほうしフゥッ!」
「ウワアアアッ」
「泣かせんなよ」
「みみがああ」
「セイちゃんそんな装備で大丈夫か」



ナマエがピンクの座をセイちゃんに譲ろうとしていたから、俺はすかさずやめさせる。ナマエはピンクじゃなきゃダメだ。守られるだけのお姫様より、一緒に戦うピンクが好きなんだ。
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設楽と幼少時代の話C
あーハイハイ思い出した思い出した。設楽聖司…なるほど。設楽先輩はあのセイちゃんだったのか……男の子だったのか………。

「設楽先輩、思い出しました」
「そうか…」
「泣き虫セイちゃん…」
「そこは覚えてなくていい」

そこしか覚えてないんですけど。
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