小説
クリスマス当日@
私の普段の姿を知っている面々にこの格好で会うのは結構勇気がいる。設楽先輩が見立ててくれたドレスはとても可愛い。でも、私に似合っているかどうかは話が別だ。いつもガサツな女が突然フリルたっぷりなプリンセスドレスなんて着て来たら…気味悪がられるかもしれない。開場間際で躊躇し出した私に、設楽先輩は若干呆れ顔で「いつも通りのお前でいればいい」と背中を押してくれた。その言葉に胸が温かくなるような安心感を覚えたのは…きっと気のせいじゃない。

「ナマエ!!」
「カレン、相変わらずキレイだねー」
「私はいいの!ナマエ…今日どうしたの!?超可愛いいいいい抱きしめたいいいい」
「いだだだだもう抱きしめてる抱きしめてる。あ、ミヨ」
「ナマエ…好き」
「それって設楽先輩の見立て?」
「うん、まぁ…」
「やっぱりな…さすが設楽先輩」
「よく分かってる…。こんなにキラキラした綺麗なお星様は初めて」
「ん?」
「まぁ私らはこんな可愛いナマエ見られて今日すっごい幸せ!ってこと」



「おっす不二山!新名くん!」
「……」
「ちょッナマエさん…!?」
「ハッ!ナマエか…」
「誰だと思ったんだよ。今年の1年は出席率いいねえ」
「そ、そんなことより翼さんどうしちゃったんすか…!か、かわッかわッ」
「かわかわとは…?」
「……」
「不二山?」
「似合うな。イメージと違うから、誰か分かんなかった」
「あ、ありがとう?」
「うん。声聞いたら、ちゃんとナマエで安心した」
「嵐さん真顔でマジパネェ…」



「よう」
「あ、琥一!」
「…どうしたんだよオメェは」
「設楽先輩が選んでくれて」
「あぁ?セイちゃんがか?ほぅ?」
「鼻で笑いやがった」
「初めて見んな…そんなピラピラした格好してんのは」
「生まれて初めてしたからねェ〜〜」
「……」
「どうしたの?」
「いや…。まぁ悪かねぇ」
「あ、ステーキ出てきた!!琥一、肉だよ肉!」
「色気より食い気ってか」



「紺野先輩」
「あぁ君か…そのドレスは…」
「えっと、設楽先輩に用意して頂いたんですけど…」
「知ってる。どれにしようかって悩んでたから」
「そう、なんですか?」
「そのときは君が着ることになるとは思ってなったけどね。あの悩み方は何かあると思ったけど」
「……」
「お人形さんみたいで可愛いよ」
「あ、ありがとうございます」
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クリスマス当日A
「ほら、大丈夫だっただろ」
「は、い」
「良かったじゃないか。送ってやるから乗れよ」
「…じゃあ。はい、お願いします。…あ、あの…設楽先輩…」
「ん?なんだ?」
「その…今日は、ありがとうございました…ドレスとか、いろいろ…」
「良いよ、別に。珍しいお前の泣き顔も見れたことだしな」
「もう…すぐそういうこと言う…」
「楽しかったか?」
「……はい!とっても!」
「ならいい」

フッとやわらかく笑った設楽先輩にドキッとした。今日は、魔法にかけられたような1日だった。シンデレラみたいだと思ってちょっと笑ってしまったけれど、この日だけは本当にお姫様になれたような気がした。設楽先輩のおかげで。…ということは、調子に乗って考えてみるとさしずめ魔法使いは設楽先輩ってことになるのか。でも、迎えに来てくれたのも設楽先輩だし、ある意味王子様ってことにもなるわけで。まぁ王子様じゃなくて、お姫様をずっと見守ってくれた魔法使いと結ばれるっていう終わり方も面白いかもしれない。私にとって設楽先輩がそんな存在だったら、けっこう悪くないかなァなんて…今ではちょっと思う。
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