小説
遊くんを助ける
バス通学も大変だと今更ながら思う。揺れが激しくて電車で立っている時よりも辛い。ん?あの中学生様子がおかしい、気がする。気分でも悪いのかな。

「ねぇ大丈夫?顔色悪いみたいだけど…」
「っん!あ、いえ…っ…だいっじょうぶ…です、から…っ」
「……ちょっと」

気付いてしまったスマン中学生。さり気なさを装いつつ、私は中学生と痴漢と思しき人物の間に体を滑り込ませた。今日はたまたまでっかいスポーツバッグだったから、痴漢は私達とかなり離れた。睨みを効かせていたら、次のバス停でその痴漢は降りて行った。警察に突き出してやろうかと思ったけど、そんなことしたら中学生が可哀想すぎる。

「あ、の……ありがとう、ございました」
「いや、ていうか…むしろゴメン」
「えっ…」
「気付いちゃってゴメンってこと。一回隠そうとしたでしょ?」
「はい、まぁ…。男のくせに男の痴漢に遭うとか…最悪ですよね…すみません、気まで遣わせてしまって…。警察とか、何も言わないでくれて、本当にありがとうございました」
「…そんな」

ええ子や。

「僕、音成遊って言います」
「遊くんね。よろしく。ミョウジナマエです。」
「はい、ナマエさん!」

ようやく見せてくれた笑顔は、ものすごく可愛いくて何というか魔性であると思った。
110325
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