小説
桜井兄弟と再会
進学する上でスポーツ推薦も考えたのだけど、高校では絶対に運動部には入らないと心に決めていたから、必死に勉強して自力ではばたき学園に入学した。是が非でも私は高校デビューを成功させたい。偏差値高くてもう無理かもしれないと諦めかけたこともあったけれど、引退後の運動部の湧き上がるような集中力は半端ないと実感した。

可愛いと常々思っていたはばたき学園のブレザーに腕を通すことが叶って私は心底上機嫌だった。

校舎が近くなってきたのでiPodを止めてイヤホンごと鞄の中に仕舞う。そこでようやく聞き覚えのある名前を伴うざわめきに気がついた。

「桜井兄弟……?」
「ン?」
「あ゛ぁ?」
「スイマセン人違いでした」
「あれ?ナマエチャンじゃん」
「待てよナマエチャン」
「アンタら怖すぎるだろ……」

桜井兄弟というのは、私が小学生のときに特別仲が良かった友達だ、ったと思うんだけど目の前にいる連中は金髪とオールバック、入学式だというのにだらっだらに着崩した制服、どっからどう見ても……ふで始まるソレだ。見た目いかち〜〜こわ〜〜……。最後に会ったのは中1くらいだったと思うけど、その時は若干やんちゃしてると言いながらもまだ2人ともわりと普通だったはずなんだけどなあ。

思わず声をかけた事を全力で後悔した。

「ナマエもはば学にしたんだね」
「さっそく心折れそう」
「折角また同じ学校なんだ、仲良くしようぜ?」
「色々と、ね」
「高校生活終了のお知らせ」
110317




宇賀神と友達になる
そこはかとない孤独感に襲われている。はじめは桜井兄弟に両サイドを挟まれる私を遠巻きに心配するまなざしをヒシヒシ感じていたのだけど、教室に着く頃には明らかにそれとは違う感情を含んだ視線に変わっていた。

最初に私にやたら送られていた心配気な視線に気付いたのはコウで、コウがルカに目配せをすると2人がほぼ同時ににやぁと笑い、門から体育館に至るまでルカはずっと手を繋いでくるわコウは頭をぐりぐり撫で繰り回すわ昔のままの感覚で好き放題してきた。

きっと私の周囲からの認識がものの数十分でまるきり変わってしまったのはそれのせいだ。確信犯だ。私的には2人とも中身は変わってないと安心させてくれているのかと錯覚して別に気にしなかったけど気にすれば良かった。周囲には桜井兄弟と仲良しの女子という立場が物珍しすぎたらしい。

件の桜井兄弟は別のクラスだったし私友達できるんか……?

「……どこ座ろっかな」

おそらくすぐに席替えはするのだろうけど、今は皆テキトーに好きな席に座っているようで、すでにいくつかグループで固まって座っているところが多い。基本的に中等部からの持ち上がりみたいだし仕方がない部分はある。一部の連中がこちらを見てコソコソなんか言ってるんだけど何のフラグですか??

「ミョウジナマエ。血液型はA、桜井兄弟とは幼馴染」
「な、なぜ知ってる……?」
「宇賀神ミヨ。星占いが趣味なの。よろしく」
「よろしくお願いします」

私によろしくと言ってくれた女の子。私は彼女の手に縋り付くように飛びついた。入学式当日、無事友達ができました。
110317




隣の席の不二山
席替えしたら隣に見覚えのあるオレンジ頭が座っていた。中学までお世話になった親戚の家……の近所にあった柔道道場に通っていた男の子の成長形態である。私も小学生の頃まで体力づくりの名目で通っていた。その道場には多くの生徒が来ていたけれど、同学年で特に熱心にやっていた男の子だからか記憶に残っている。

「不二山じゃん、おっすー」
「おう、ミョウジか。久しぶりだな」
「うん久しぶり。不二山もはば学にしたんだね」
「さて、と。じゃあ勝負するか」
「おかしいだろ」
「挨拶代わりだ」
「ふざけっぎゃああああああああ」

新学期早々同級生男子から大外刈りきめかけられた私の気持ちたるや。制服姿の女子高生としての尊厳を失わないように必死でこらえた。
110318
- ナノ -