小説
「宮田にも紹介しておきますね」

2人の女の間で求導師はぎこちない笑顔を浮かべている。おそらく昨日はじめて出会ったばかりであろう女と、母のように身をゆだねてきた求導女。時折求導女に助けを求めるように目を遣るあたりがいかにも牧野らしい、目の前の光景を見ながら宮田は思った。

「かねてから求導師様にはお世継ぎをと思っていたのですけれど、ほら…。この村には求導師様に似合いの女性がいないでしょう?」

求導女の言葉で宮田はすべてを理解した。計画とは、端的に言えば求導師の体の良い見合い話のことだったのだ。この村出身で、天涯孤独で、宮田達と同じ年頃である女。なるほど、確かにミョウジは適任だろう。少し話だけでも分かる、ミョウジは素直で人好きのする性格だ。求導師とは相性が良さそうな上、求導女の言いつけもよく聞くことが想像できた。
村から出ることのない求導女が、彼女の容姿や性格を前もって知っていたとは思えない。おそらく一種の賭けではあったのだろう、ただし、同時に何かあれば代替がきくという保険もかけている。そんな抜け目のなさも窺えた。反抗的で粗暴な女であれば、求導女は容赦なく宮田に処分させていたに違いない。よくもまぁこんな都合の良い女を見つけ出してきたものだ、と感心する反面、偶然にしてはできすぎているとも宮田は感じた。

ふとミョウジと視線が絡む。ミョウジもこの状況に困惑している様子が見て取れた。計画の内容は知らないと言っていたのは真実だったらしく、疑ったりして悪いことをしたと宮田は心のうちで謝罪する。

「宮田との顔合わせも済みましたし私達はそろそろ教会へ戻ります。求導師様、ナマエさん。行きましょう」
「そうですね。宮田さん、では…」
「あの…私、もうしばらく村を見て回りたいのですが…よろしいですか?」
「あら、そうでしたか。求導師様はどうなさりたい?」
「…私はその、八尾さ…求導女と共に教会に戻ります」
「ナマエさん、求導師様はこうおっしゃっていますが、お1人でも大丈夫かしら?」
「はい、1人でも大丈夫です」
「…分かりました。宮田も気にかけてあげてくださいね。求導師様のお嫁さんになる方ですから」

そうして求導女は牧野を連れて教会へ帰って行った。最後の念を押すような言葉は宮田への鎖で、きっと二重の意味を持たせていた。1つは宮田としてこの女が歯向かわないように、そして逃げ出さないように監視しておけということ。もう1つは、

「はぁ…やっと一息つける。司郎君昨日ぶり」
「まぁ、そうなりますね」
「求導師様と八尾さんってすごい仲良しだね…?」
「仲良し…」

親子のようでもあり姉弟のようでもあり、恋人のようでもあるが、そのどれでもない歪な関係は形容しがたい共依存にしか見えない。宮田はあの2人を見る度、靄がかかったような不快な錯覚に襲われる。

「うまくやっていけるか不安だなぁ…」
「だったら、婚姻を結ぶ前に村を出たらいかがですか?」
「え?」
「こんな村に居続けるメリットなんてありませんよ」
「…司郎君はこの村が嫌いなの?」

宮田は自分が余計なことを喋りすぎたことに気付き、取り繕うように言葉を継いた。

「一般論ですよ一般論。あなたみたいな若い女性がわざわざこんな田舎に住みたがる理由がない」

じっと見つめるミョウジの視線から逃れるために一歩後ろへ下がった。ミョウジも宮田が分かりやすく壁を作ったことを悟ったようだった。

「計画のことはあくまできっかけで、私はずっとこの村に来たいと思っていたよ」

改めてミョウジは宮田の顔を見つめた。ミョウジは宮田に微笑みかけている。求導女が宮田に科した鎖のもう1つは。

(180708 / )
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