小説
道中の会話で分かったこと。女の名前がミョウジナマエで、年は宮田と同じで27歳であること。羽生蛇村の出身であること。そして両親は既に他界していること。

教会のとある計画のために呼び戻されたこと。

とある計画――その言葉に宮田は引っ掛かりを覚えたが、#名字#自身もその中身を知らされていないようだった。本当に知らないのか、知っていて知らない風を装っているだけなのかは定かではないが、たとえ知っていたとしても、#名字#は口を割らないだろう。そういう人間性でなければ、あの求導女が自分の企てた計画の一端を担わせるわけがない。

少なくとも、#名字#はこの村の異物として排除すべきものでないようだ。

いらない仕事が増えずに済んだと宮田は安堵した。心中でそんなことを考えているとは露ほど思っていないだろう、ミョウジナマエは隣で呑気に景色を楽しんでいる。何も実らせない棚田と歪な墓碑が立ち並ぶ景色。

「この道をまっすぐ行けば着きます。私はこっちなので」
「ありがとう。本当に助かったよ。荷物まで持ってもらっちゃって」
「いえ、それでは」

村に呼び戻されたということは、少なくとも当分の間はこの村に留まることになるのだろう。また会う機会もあるかもしれないが、教会側の人間になる存在に肩入れしたくないと宮田は思う。

「司郎君、またね!」

唐突に後ろから名前を呼ばれ、宮田は慌てて振り返るとミョウジが笑顔で手を振っていた。自己紹介をされた際に名前で呼ぶように言われたが、まさか自分も名前で呼ばれるとは思わなかった。年齢を確認したのが間違いだったかもしれないと宮田は後悔した。同じ年ということで変に親近感を持たれたようだ。

訂正しようと開きかけた口だったが、大きく手を振る彼女の姿が、どこかで見た光景と重なって宮田は息を飲む。それは一瞬だったが、故に訂正する機会を逃してしまった。

ミョウジが教会側の人間になってこの村の詳細を知らされたら、あちらから勝手に距離を置くに違いない。わざわざ訂正しなくとも流れに任せればいいと宮田は考え直し、軽く手をあげてミョウジに応えてから神代家へ向かった。

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