小説
教室に戻るやいなや両腕を拘束される。見渡すと満席だった。何だ、別に俺がいなくても十分客寄せできているじゃないか。そう思ったのもつかの間、改めて確認すると半分以上のテーブルの上には何もなかった。さらに不自然なのは手持ち無沙汰なクラスメイトがいることだ。オーダーが追いついていないわけではないようだった。

「あの辺の連中はお前に会うまで帰らないんだと」
「ハァ!?何なんだそれは……」

女というのは本当に面倒くさい。溜め息をついて受付横にある椅子に座った。俺の持ち場はここだ、給仕はしない。すると、さきほどまで席にいた女共が群がってくるがオーダーしないなら帰って下さいお嬢様と言えば、喜んで席に戻って飲み物を頼み始めた。ちなみにこれはクラスメイトの女子生徒が考えた定型文の1つである。ほぼ機能していなかった教室が慌ただしくなり活気を取り戻した。

「……フゥ」
「設楽せーんぱい!」
「うわッ!?」

俯いた瞬間に話しかけられて驚く。この声は、

「小波か……」
「はい♪昨日の劇、お疲れ様でした!」
「お前もな?」
「今日はもう自由時間とかは……」
「悪い、ついさっき終わったところなんだ」
「……一緒に回りたかったですね、残念です」
「………」

俺は、

「どうかしましたか??」

残念じゃないんだ。一度崩れたら元には戻らない。それが心地いい風に吹かれて消えてしまったのなら尚の事。あんなに手に入れたくて仕方がなかったのに、俺は自分の手で握りつぶしたんだ。

(130610 / end)
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