小説
「ローズクイーン?」

校内の至るところでローズクイーンという単語が飛び交い、辺りの壁には目を引く掲示物の数々。ローズクイーンは彼女達が卒業してから生まれた企画だ。不思議そうにその掲示物を見る2人にローズクイーンについて軽く説明をした。非公式のミスコン的な催しで、容姿だけでなく成績やスポーツなど多くの分野で秀でた女子生徒が選ばれる。

「何よそれぇ!そんなの瑞希のためのイベントじゃない!どうして私達の時にはなかったの!?」
「……」
「へ〜、確かに今年の候補の女の子達の写真載ってるけど、みんな可愛いね?」
「ま、可愛いんじゃない?瑞希ほどじゃないけど!」

憤慨する瑞希に思わず無言になった俺とは違い、ナマエさんは瑞希を操るのが上手い。昔からそうだったように思うが、さらに磨きがかかっている気がする。面倒見もいい。もし彼女達が高校生のときにこの企画があったなら、ローズクイーンにはナマエさんが選ばれているに違いない。これは贔屓目なしに。

「あ!もうすぐ吹奏楽部の発表だ」
「あらホント。そろそろ行かないと良い席なくなっちゃうわね」
「そうかも!聖司くん私たち行くね?君もそろそろ戻らなきゃダメだよ」
「……分かりましたよ」
「よろしい!じゃあまたねー」

幼い頃のようにナマエさんに頭を撫でられた。昔は少しかがんで視線を合わせてくれていたナマエさん。今は、代わりに少し背伸びをしてくれたナマエさん。そういうところ、やっぱり変わっていない。相変わらずの子ども扱いはほんの少しだけ癪に触るけど。



体育館へ向かった2人を見送った後、行くあてもない俺は言われた通り自分の持ち場である教室へと戻ることにした。今年の文化祭で最も面倒な劇は1日目に終えた。しかし思えばその劇以外に俺は特に何もしていない。ほぼ何も手伝うことなく、いるだけでいいと言われたクラス出展だったがそれさえ満足にこなしていない。高校最後の文化祭だ。……それくらいはやってやるか。

教室へ戻る途中、はば学生たちの会話が耳に入った。

(今年のローズクイーンもかなり可愛いけど来年の候補に比べたらなー?)
(そうそう。来年はもう決まってるようなものだから)
(あの子以外にはありえないよね?ほら!たしか2Bの……)


『 小波美奈子 』



(130411/)
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