小説
夢主視点

瑞希さんから「今度日本に帰るから楽しみにしていて」という内容のメールをもらった。数日前のことだ。忙しい瑞希さんのことだから日本に着いてもすぐにはゆっくりできないかもしれない、無論私のために時間をとるのはとても難しいことだろう。そう考えて、とりあえず今は「おかえりなさい」と「落ち着いたら会おうね」という旨の返信をした。言葉通り瑞希さんに時間的に余裕ができた頃に改めて遊びに誘おうと思っていたのだ。
それからほどなくして怒りを露わにした瑞希さんが私の部屋を訪ねてきた。「何ですぐ会いに来ないのよぉ!!!」とぷりぷりと怒る瑞希さんを見て「この子は変わらないな……」と安心して頬が緩んでしまった。私があまりにもにこにこしているからか瑞希さんは当初の怒りを早々に鎮めてくれた。

私が大学進学した頃から借りているマンションの一室に対して、瑞希さんは相変わらず狭いと文句を言いつつ、定位置であるベッドの上で寝転んでいた。瑞希さんと出会って何度目かの私の誕生日にプレゼントしてくれた大きなたぬきのぬいぐるみを抱っこしながら。ちなみにたぬきである理由は瑞希さん曰く私がたぬきに似ているからだそうだ。2人で会うときは終始近況報告になりがちなのだけど稀に思い出話に浸ることもあった。

「10月ね」
「文化祭のシーズンだね!」
「懐かしいわ……とーっても」
「せっかく日本に帰ってきたんだし。はば学祭見に行かない?」
「まぁ……ちょーっとくらいなら時間とってあげてもよくてよ」

忙しい子だから断られるかもしれないと思ったのだけど二つ返事でOKしてくれた。それでいいのか須藤瑞希。何着ていこうかなーとワクワクしている私を見て瑞希さんがぽつりと一言呟く。

「……あなた、本当はただ氷室先生に会いたいだけじゃないの?」
「あれ?バレてる」
「そんなことだと思ったわ!全ー然変わってないんだから!」
「でも付き合ってくれる瑞希さんが好き!」

「まぁ!そう言えば私が気を良くするとでも思ってらっしゃるの!?私そんな扱いやすい女じゃなくってよ!?」と何の牽制にもならないただただ可愛いお言葉を頂いてしまった。
でも本当にありがたかった。だって一人で会いに行く勇気はない。そうして私達は数年ぶりの母校へ足を運ぶに至ったのだ。

この時点では、本当は自分の行き場を失った気持ちを終わらせようと思っていたのだけど。

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