小説
――須藤瑞希が日本へ戻ってきている

その報せを聞いたのは、今からもう1週間も前のことになる。須藤瑞希とは古くから家ぐるみの付き合いがある須藤家の令嬢のことだ。確かにかつては何かにつけて互いの家に行き来する程度には親交があったものの、それも幼少期のうちだけで、今となっては帰国を喜ぶためにわざわざ会いに行くほど親密でもない。何ならあの人はキャンキャンとうるさく喚くのでできれば会いたくないと思うほどだった。
俺の考えとは裏腹にそのうち嫌でも会う機会は設けられるに違いないから(伊集院家や花椿家も含め何らかの形で会合があるのは目に見えている)、やはりすぐに会いに行く必要はないだろう。そのときは本気でそう思っていて、同時期に到来していた文化祭シーズンなんてものに振り回されている間に、須藤瑞希関連の諸々を記憶の端の方へ追いやっていたのが悪かったのかもしれない。



文化祭当日、俺はもう二度と会わないと心に決めていた女性と再会する。

(130402/)
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