ネタ
anime osmt 男主と高校生一松@

祖父が遺した家。世話になった人だった。年の節目以外にも遊びに行くことも多くて、それゆえ祖父が住んでいた家には愛着があった。取り壊すという意見に待ったをかけて、住み慣れた土地を離れて、単身引っ越して来てしまうくらいには。

やたらと広い平屋で、築年数は相当で、しかも立地条件も交通に不便なところときた。普通に売りに出しても買い手はつかないだろうし、だから取り壊しの案も出ていたわけだがなくなるには惜しい。

築年数からして古めかしくあるべきものなのに、現代っ子の自分にとっては逆に新しく感じる、ともすればまるで秘密基地のような。これは初めてこの家と対面した際の感想だ、今改めて見てもその感想に偽りはない。

主が消えて整えられることのなくなったボロボロの垣根。は枝が飛び出ているし所々にクモの巣が張っている。下の部分に至っては野良猫の通り道にでもなっているのか丸く大きな穴が開いていた。

そういえば、祖父は猫が好きだったなぁ、よく縁側で猫を侍らしていた。あの猫たちはどこへ行ってしまったのだろうか。



居間に荷物を置いて部屋の中を見回した。換気ぐらいしか手をかけなかったわりに綺麗だった。埃は積もってはいるが、畳は張り替えてからそんなに立ってはいないのだろう。すぐにどうにかしなければならないという感じではない。

さっさと掃除を始めなくては。ノルマはとりあえず寝食できる部屋の確保だ。食事は出来合いのもので済ませて、風呂は銭湯にでもいけばいい。

掃除道具は納屋にあるはずだ。それを取りに行くついでに、家中の閉じ切った雨戸を順番に開けていく。やや建付けが悪くなっているのが気になるが、サッシを掃除すれば少しはマシになるだろう。

「ん゛ん…おっも、筋肉痛になりそ」
「えっ」
「えっ」

雨戸を開け放った向こうには、荒れ放題の庭と先ほどの穴の開いた垣根。いや、猫の通り道にしては少し穴がでかいなあとはと思ったのだ。まさか、

「人間の通り道でもあったとは」
「あっ、あの、す、すす…」
「これは不法侵入ってことになるのか?」

生垣の葉っぱを頭や服にたくさんひっつけて、四つん這いのまま固まっている少年。この辺の高校生だろう。昔この家に来ていた頃から、その制服はよく見かけるものだった。

「とりあえず、出ておいで」
「えと、あの…はい」

庭へ出て、彼の視線に合わせるように屈んだ。固まっていた少年は植木の間から這い出し、体勢を四つん這いから正座に代えた。ボサボサした髪は元からなのか穴に潜ったからなのかは分からないが、葉っぱが絡まっていたのでとりあえず払ってやる。手を翳すと、少年はびくっと身体を揺らした。

「はぇ…なんで、」
「叩かれると思った?」
「だって、勝手に…不法しんにゅう…」
「ああ、でも家の中には入ってないだろ。鍵もかかってたしガラスも無事だ。そもそもこの家何もないから」
「……それでも、ごめんなさい」

あ、やばいこの子泣きそう。下唇を噛み締めて、太ももの上で拳を握っている。葉っぱを取る手が、自然と頭をなでる動きへ変わった。泣かれるのは困る。

「どうしても気になるなら1つだけ君に条件をやる。それでチャラってことで手を打たない?」
「条件…?」
「そう。俺、今日ここに引っ越してきたばっかでさ。見ての通り庭は荒れ放題、家の中もまぁ埃だらけで汚くてな。1人で掃除すると何日かかるか分かんないんだわ」
「掃除を手伝う、ってこと…ですか?」
「話が早くて助かる。まぁそういうことだ」

普段からこの庭に出入りしていたと見られる少年には、庭のことはもちろん、長いこと人が住んでいなかったこの家の状態は、想像するに容易いはずだ。
正直、人手は欲しかったがこっちに知り合いはいない。罪悪感で真っ青になっている少年には悪いが、丁度良く労働力が手に入ったと喜んだ。

「俺こっちに友達いないから、話し相手になってくれると嬉しい」

これも本心だ。年はやや離れているものの、男同士だし、なによりこの少年は良い子そうだ。是非仲良くしたい。仲良くして、お買い得なお店とか穴場とか教えて欲しいいやただ1人が寂しいだけです。
勢いで単身乗り込んできた割に、じいちゃんのいないこの家は思ったよりも広くて寒くて、既に俺は人恋しくなっていたらしい。

「どう?」
「えっと…その、よろしくお願いします」

正座したまま三つ指をついてお辞儀をする姿は少々誤解が生まれそうである。


2016/05/19
- ナノ -