ネタ
wj hkr5 佐為が再び平成へA

結局、静寂を切ったのは私の方だった。その人は、じっと見つめる私に目もくれずに呆然とただ立っているだけだったから。
ドアの音には反応を示さなかったけれど、声をかければさすがに気がついてくれたようだ。ビクッと大げさに肩が揺れ、こちらを振り向いた。
その動作には、あまりにも芯がない。というのも、翻ったはずの袖や長い髪が風を切った感じがしなかったのだ。不法侵入の危険人物よりかは、美しい古風な幽霊さんの方がマシだと思うのは、現代社会に毒され続けた弊害だろうか。

「あなたは何者?」
『私は…藤原佐為と申します』
「名前聞いたわけじゃないんですけど…。私は#苗字##名前#です。ここの家主なわけですが…何でまたわざわざこんなところに現れたんです?もっとこう、縁のある地とかあるでしょう」
「なぜ!?」

なぜって、彼が幽霊だと決めつけて話してることだろうか。近づいて手を伸ばしてみるものの触れることはなかった。やっぱり彼には実態がない。

「あなたが幽霊だと思った理由は、まぁ色々あるけど…」

彼は善良な幽霊(おそらくは、)であったわけだが、彼が例え凶悪な殺人鬼であったとしても、それはそれでかまわなかったのだ。幽霊だとか人間だとか、今の私の胸に溢れる感情において、そんなことは些細なことだった。
酷く高揚した。何にも脅かされない生温くて適当な、平凡な自分にぴったりな日常が壊れる予感がしたのだ。

現実離れした目の前の彼をきっかけに。


2015/06/17
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