ネタ
aot ジャン逆トリップC

話を聞くにせよ警察に連れて行くにせよ、この家出少年(仮)が落ち着くのを待つ必要があった。多少警戒心を緩めてくれたとはいえ、まだ名前すら教えてくれないのが現状である。世間話でもすれば、多少は気を許してくれるだろうか。それにしても寒そうな格好してるなぁ…。手荷物もないし、家出にしては軽装備に思える。衝動的なヤツかな。

「今日は星がよく見えるね」

上を見上げる私の仕草に釣られるように、隣の少年も上を見上げたが、見づらそうにぎゅっと目を細めた。

「そう、ですか…?俺にはいつもより…」
「まぁココ、真上に街灯あるし見づらいか。うちのベランダからだともっとキレーに見えるよ」
「……街灯」

少年が見つめているのが、真上のオレンジ色のゆらゆら光る街灯であることが分かった。星の話をしていたのに。それを見る少年の目も、その街灯のようにゆらゆら不安そうに揺れていた。暫しそのオレンジ色を眺めた後、少年は再び膝に頭を埋めてしまった。こりゃー長丁場になりそうだーー。

スマホを確認すると、時刻は深夜2時を回っていた。いかん。明日休みで貫徹をいとわないと決めたとはいえ、このまま野外で夜を明かすのは勘弁願いたい。そろそろ家に帰って風呂入りたい。

「ねぇ、君」
「あっ、はい…」
「家おいでよ」

それからさらに数十分に渡る説得の末、少年の重い腰を上げさせることができたのだ。説得と言っても、主に自分が年下愛好家ではないことや強いては少年に何ら危害を加えるつもりはないということを精一杯主張しただけだが。正直この主張はあまり関係なかったかもしれない。どちらかというと、先ほどの肉まんあんまんが功を奏した気がする。

帰り道、自分の名前はジャンというのだと教えてくれた。ジャン…。雀と書いてジャン?斜め上に考えて現れると書いてジャン!とかか?発想力には脱帽だが本気で当て字とかだったら就活辛そう。

「よろしくね、ジャン君」と名前を呼ぶと、彼は力なく笑った。その時、私が警戒心だと思い込んでいたものは、どうやら別のものなんだと何となく悟った。横を歩く姿はまるでさっきまで迷子になっていたとでも言うような、子どものソレだ。さっきまでのは不安から来る恐怖に染まった顔だったのか。

少年は、いつの間にか私のスウェットの裾を掴んで、また泣いていた。


-------
安心して泣いちゃう


2013/11/05
- ナノ -