ネタ
aot ジャン逆トリップB

見なかったことにもできたはずだ。でもそれをしなかったのは、その子が昔の自分に重なったからかもしれない。そうじゃないかもしれないけど。ねぇ、と声をかけると、彼もさっきの私と同じように大袈裟に体をビクつかせて、顔を上げた。瞼が真っ赤に腫れていると分かるのは、真上の街灯のおかげだろう。決して星のおかげでも月明りのおかげでもない。

「君、中学生くらいだよね。おうちどこよ?」

ちょっと柄が悪い感じになってしまった。しかし、それに関しては然程気にしていない様子で、どちらかというと質問の内容に困った、という顔をした。

「……分かんねッス」
「ふーん。何でこんなとこいんの?」
「……」
「寒くない?」
「……」
「何で泣いてたの?」
「……ッ!」

急に話しかけて来た私に呆気を取られていたのか、涙が引っ込んでいた彼だが、質問攻めに耐え兼ねて再びぶり返しそうだ。いかん。こんな深夜に男子中学生を泣かせるだなんて、ちょっとした事案モノですわ。
私はとりあえず、見下ろしながらの質問はやめ、彼の隣に座った。どうせ明日は休みだ。今日は貫徹もいとわないと決めた。そのまま静かに星を眺めていた私だったが、ハッと手のレジ袋の存在を思い出す。冷めてしまっては元の木阿弥だ。

「肉まんとあんまんどっちが好き?」
「…よく、分かんねッス」
「君、便利で厄介な言葉知ってんね。じゃあー、こうしよう」

はい、と肉まんとあんまんを半分ずつに割って、彼に手渡した。熱いから気をつけてね、と言うほどではなくなってしまったが、まだほんのりと暖かい。湯気も出ている。押し付けるように渡したからか、少なくともそれらは彼の手中に収まった。

「まだあったかいから、きっと温まるよ。寒かったでしょ、こんなところに一人で」

食べて食べて、と言うと恐る恐るという様子で口に運ぶ。警戒を隠せない風だったのに、1口食べた途端ぱくぱくとテンポよくいった。食欲とは警戒をも凌駕するらしい。それを横目に私も食べ出す。元はと言えば、コレのためにコンビニに行った…んじゃなかった、最初はラーメンだったわ。コンビニは初志貫徹という言葉を真っ向から否定しにかかって来てると思うんだ。

「私は肉まん派なんだけどね、しょっぱいもの食べたら甘いものが食べたくなるじゃん。だから仕方なくあんまんも…ハッ」

だとしたら、ラーメンを買ったらきっと私はそれだけでは辛抱たまらず、プリン的な、いやケーキ的なものも買っていたに違いない。そして恐ろしい数値のカロリーを摂取するところだった。危なかった。

「そういえば君、名前は?私は#名前#って言うんだけど」
「……」
「教えてくんないと、君のことこれからも君って呼ぶ羽目に…って、なんでまた泣いてんの?」
「……あの、コレ…。すごくうまい、から」

確かにコンビニの中華まんって不思議な魅力があると思う。でも、泣くほどだろうか。死ぬほどお腹が減っていればそう感じることもあるかもしれないが。

おい…

おい。

何となく一瞬脳裏に過ぎった仮説にすぎない。でも結構濃厚説かも。この子、もしや家出少年…?


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はずれ


2013/11/02
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