ネタ
comic nbng サブローの後にトリップB

目を開けると見知らぬ天井、というのにはもう驚かない。最初目覚めたときは森と空だったから、それに比べればどうってことない。ただ、今までのことが夢でなかったということを思い知って悲しくなった。冷静に今までのことを振り返ると、私は この世界 に来たときに、確かに想像を絶する 現実 に言葉を失ったのだ。理屈じゃなくて、身体が、心が、そう理解していた。キレイな布団に寝かされていたのを見ると、とりあえずは私の死期は遠退いたということでいいだろう。それを鑑みると、やっぱり意識を失う前に見たサブロー先輩は、本物のサブロー先輩だったようだ。でなきゃ、助けられる動機がない。小学校、中学校と一緒で、近所に住んでたサブロー先輩。懐かしい。もう何年も会ってなかったけど、あんまり変わってなかった。っていうのはこの際どうでもいい。彼がいたおかげで助かったわけだし。ただ、考えれば考えるほど意味が分からない。この世界は夢じゃなくて現実で本物、だから殿様とかお姫様とかも本物なんだと思う。でもサブロー先輩も本物…。殿様とサブロー先輩はイコール…。?

「痛ッ!!…うわ、痛い何これ」

今まで経験したことがないってくらい、顔面やら首やら頭全部が痛すぎて力が入れられない起きられない。誰かの手を借りればいけそうだけど、部屋は静まり返っていて人気がない。襖の向こうとかだったら誰か居そうなものだけど…殿様の知り合いっぽいとはいえ、見張りとかいるだおうし。大声を出すかしようかとしていたら、襖がスパンッと良い音ともに開いた。

「#名前#ーー大丈夫ーー?」
「サ、サブロー先輩…お、おかげ様で」

ズカズカと部屋に入ってきて、私の枕元に座った。後ろからこないだの従者…きっと側近なんだろう。彼とは別に派手な着物を着た人も慌てて続いて入ってきた。サブロー先輩の後ろに控えている。

「酷い顔」
「…もとからですよ」
「女の子なのに、恒ちゃんも酷いことするよね」
「恒ちゃん?」
「#名前#の首切った人」
「…ああ」
「思ったより冷静だ」
「なんか…どうでもよくなってきて…でも、どうしてサブロー先輩が殿様?」
「うーん、話せば長くなるんだけど…俺、今織田信長やってんだよね」
「!?」

歴史というかそもそも勉強全般苦手な私でも知ってるあの偉人。がサブロー先輩…だと…。サラッと言いやがった。しかも重要なところは全てすっ飛ばしてだ。嘘はつかない人だと知ってはいるし、彼が織田信長と名乗っても周りの側近たちは平然としている…ということは本当なんだろうけれど…これはさすがに疑いたい(ただし、そう強く思うのはもっと先の話である)。この時の私はどうしてサブロー先輩が信長をしているのかとかはもはやどうでもよくなっていた。私の頭の中を占めているのは、ここは“織田信長”のいる戦国時代で、私はそんな昔にタイムスリップしてしまった。そのことにする漠然とした恐怖だった。どうして来てしまったのか何が原因なのか。これからどうすればいいのか。帰れるのか。頭の中がぐるぐるしてきて気持ち悪い。…サブロー先輩も同じようにやって来たのだろうか。サブロー先輩は考え過ぎて気持ち悪くなってしまうことはなさそうだけどね。

「で、お前今何やってんの?いや、今って言い方はおかしいか」
「えええ」

黙り込んだ私にサブロー先輩が話を振ってきた。突然話題が飛んだせいで、新しい話題に切り替えようと、ぐるぐるしていた思考もぶっ飛んでいった。

「中学卒業してから、ずっと調理系の専門学校行ってますよ…」
「へぇ!じゃあ料理できるんだ」
「人並みちょっとは……できると思います。パティシエ志望ですけど」
「へーー!」
「あ、あの!」
「ん?」
「こ、っこっここに置いてもらえませんか?何でもやります」
「いいよ」
「ガチでか」
「お前料理の専門行ってたんでしょ?」
「は、はい」
「俺洋食食べたいんだけど」

悩んでるのがバカらしくなってくる不思議。とりあえずこれからどうすればいいのかは、織田信長もといサブロー先輩のところでコック(仮)をするということで解決しました。


2013/08/30
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