wj IC ヒル魔と元いじめられっ子�@

---

「私、嫌いなの」

その人は僕の目をまっすぐ見てそう言うものだから、僕はそれを僕に対しての言葉だと錯覚しかけてしまった。いやいやさすがに初対面の人に嫌われるいわれはないはずだうんきっとそのはず。

「アメフトが…ですか？」

ようやく搾り出せた言葉がこれだ。彼女がアメフト好きだという情報を頼りに、マネージャーとしてスカウトしに来たというのに何を言っているんだ僕は。……もしこれでやっぱりさっきのは僕に対してのことだったら死にたい。

「違うよ。私はヒル魔が嫌いなの。最悪じゃんアイツ」
「エッ…」

身体中の血液が凍った気がした。周りで何となく僕らの会話を聞いていた（僕だけだったらきっとこんな風に聞き耳を立てられることはないはずだ。おそらく彼女が目立つんだろう）人達も同じなようで、悲鳴さえ聞こえる。皆この人の心配をしている。ヒル魔さんに何かされやしないかと。

「だからマネージャーは無理」

彼女がふと僕の耳元に口を寄せてきた。周りが僕らを窺っているのに気付いているんだろう。

「…ごめんねアイシールド君」
「！」

頭をぽんぽんと撫でられて我に返る。瞬間頭が真っ白になっていたらしい。どうして、と聞き返してしまえば自分がアイシールド21だと認めることになってしまう。寸のところで口に出さずに済んだ。

「アイシールドかァ…。ヒル魔らしいな」

僕がもう見ていないと思ったのか、そう独り言を呟いて彼女はフフッと笑った。僕はその笑顔に嘘はないと思った。嫌いな人間を思い浮かべて、こんな風に優しく笑えるものだろうか。そこで僕は１つの仮説に到達する。そうか。この人はヒル魔さんのことが嫌いなんかじゃなくて、本当は……。僕は頭がよくないから、どうして彼女は嘘を言うのかまでは分からなかった。

2013/08/30