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wj aoex インクブスの血を引く女子B

後悔していた。やっぱりもう少し慎重になった方が良かったかもしれない。燃料補給して思考力を取り戻してからまず考えたのはそれだった。タメ口だったから先輩かもしれないし、同級生だとしてもクラスでは見なかった顔だから、気を付ければと会うことはないと思う。でもここは全寮制の学校なんだから、絶対に会わないという保証はない。学校生活は始まったばかりでこれから先まだ長いというのに、過ごし辛くなったら困るなァ。あと、私は優しくて良い人には手を出さないようにしていたのに、とうとうやってしまったという後味の悪さがあるいや美味しかったけど。新学期とか祓魔塾のこととかでバタバタして補給するのをすっかりと忘れていたせいで、我慢できずに目の前に無防備に差し出された食料にがっついてしまったわけだが。あの初心そうな反応を見るとファーストキスだったのかもしれない。ごめん。気持ちに反して体調を回復した私の足取りは軽く、理事長に頂いた祓魔塾の鍵を適当な鍵穴にさして扉を開けた。教室に入った瞬間、帰ろうかと思った。

さっきのニワトリ頭が教室の後ろの方にいる!不良っぽい外見のせいで、彼が祓魔塾にいるかもっていう可能性を全く考えなかった。よくよく考えれば、道端に転がってる見ず知らずの女子に手を差し伸べてくれるほど優しい人だから、人助けをする祓魔師を志していないだなんて言い切れないのに。精気不足中の私の判断力は本当にあてにならない。
私がドアのところで固まっているのを、ニワトリ君が気が付いた。うわ、ヤバイんですけど。私が呆然とニワトリ君を見ているのに対し、ニワトリ君は顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。えっ、何この子可愛い…。私はその反応を見て確信した。あの手のタイプが、女の子に唇奪われてしまった だなんて誰かに言えるわけがない。だから、彼によって私の日常が脅かされることもなさそうだ。

そもそも私が良い人は手を出さないようにしていた理由はこう。良い人、というのは人からの信頼がある。だから、例えば私のことをキス魔だ痴女だ気を付けろって言えば、みんな右に倣えで信じてしまうだろう。でも、悪い人にはその 信じてもらう力 がない。悪い人の信頼は、仲間内だけの、小規模な世界でしか通用しない。そんな少人数にそう思われても私は痛くも痒くもないし、食料増えたラッキーくらいにしか思わない。(……そもそも男なんていう生き物は無駄にプライドが高いから、女に押し倒され成す術なくクタックタになるまでキスされたなんて汚名人に言いふらすなんてしないだろうけど)私は日常の平和は守りたい。普通に勉強して、普通に友達と遊んで、普通に生活したい。だから、私は、私の日常にいなくてもいい 悪い人 を食料にしている。私の友達はキスをとても大切なもののように言うけど、彼女達だって「毎朝パンにキスしてる」じゃないか。私にとってのキスはこういうことなのである。

私は安心して、次からは気を付けようと思った。


2013/08/30
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