ネタ
twst 絵画修復士とNRCの肖像画@

性別不問主/エース視点

その人物は、誰からの説明ひとつなく我々の学園生活に入り込んできた。
学園側からすれば、外部の臨時職員を雇った程度の感覚なのだろう。
我々は多感で難しい年頃なのだから、そのあたり考慮すべきでは?と思うが、あの学園長がそんなものに気を配れるはずもないから仕方がない。

何の変哲もない容姿、言ってしまえば果てしなく地味なだけなのに、それがむしろ持ち前の無垢さや屈託のなさなんかを際立たせているように思えるから不思議だ。くるくる切り替わる表情にも人を惹きつけるなんとも言えぬ魅力があった。

その職員はどこから引っ張り出してきたのか、古びた木製の脚立のてっぺんにちょこんと腰掛け、壁に飾られた肖像画とおしゃべりに興じていた。

多少華奢だが上背はなくもない。声色も中性的で、この場所から窺える情報だけでは性別の判別はできない。ただなんとなく意図してどちらともつかぬ装いをしている気がした。きっとこれがこの職員のスタンダートなのだろう、そう思えるくらいに収まりが良かった。学園が男子校だからこそ、あえてそうしているのだとすれば随分と小癪な話だが。

引き続き会話を盗み聞いていると……件の職員はなんでも魔法絵画修復士らしい。一般の職業の頭に魔法とつく場合、その分野の資格を持つ魔法士を指すことが多い。
なので、職員も当然魔法士なのだろうと考えていたのだけど、話を聞いていくうちに、何と魔力を一切持たない人間であると分かった。
錬金術が得意で修復に使用するインクは錬金術で作るし、各道具には特殊な魔法がかかっているおかげで魔力は必要ないらしい。
へー、ほおー、そんな職業があったんだ、一つ賢くなった。

会話を終えたのか、職員が肖像画に手を降った。そして脚立からゆっくり丁寧に降りようとしたにもかかわらず途中足を踏み外したので、習いたての物を浮かせる魔法を使ってやった。
落ちそうな予感がしたのだ、鈍くさそうなやつだったから。ただ維持するのはまだ難しくて、魔法が途切れる前にとっとと脚立のところまで直接身体を支えにいく。

「君は……」
「エース。エース・トラッポラ」
「自分は#名前#です。助けてくれてありがとう、エース」

職員の一人称が"自分"であるところもはじめて聞く#名前#という響きも、とてもしっくりとしていた。


2023/01/14
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