ネタ
twst ナニカくんA

男主/ジェイドと

2人の出会いは入学して半年ほど経った頃だっただろうか。

「それ、毒キノコですよ」

おだやかで親切然とした声掛けしたのは#名前#とは同学年の男子生徒で、オクタヴィネル寮の有名人。交流はなかったが#名前#はその人物のことを知っていた。陸に上がった人魚の1人、リーチ兄弟の片割れ。双子のうちどちらなのか外見だけで判断できるほど詳しいわけではないものの、状況を鑑みると高確率でジェイド・リーチの方だと思われた。
というのも、今2人がいる場所が学園からほど近い山の登山口付近であるからだ。
陸に上がって間もないのにもかかわらず山という陸上の大自然に魅了された人魚。登山は趣味として確立してはいるものの、陸で生活する種族は往々の場合、乗り物の進化からも察せる通り歩くという行為を厭い楽をしたがるもの。したがって登山は趣味としては特殊な部類と言えるだろう。
ジェイドのこの声掛けは親切心からのものであることに偽りはないが、その裏側で、目の前の陸上生物の山登りに適さない身なりと、山の植物への知識も薄そうであることに少しだけ失望めいた感情を抱いていた。
ジェイドは既に何度も山に登り、本で得た知識は正しく役に立つこと、外れたことをすれば怪我や遭難などの危険があること、どちらも自分の経験を持って思い知っている。それをよもや陸上生物が知らないとは。

「あーどうりで。でもうんまいんだよあコレ」

真っ赤でまんまるでっぷり、しかも見るからにヤバそうな斑点付き。指先で撫でるようにして土を落とす。#名前#の口ぶりはどう聞いても「食べたことのある」側のものだった。その言葉にジェイドは驚きを隠せない。毒キノコを食べると酷い下痢や嘔吐、呼吸困難に幻覚作用といった中毒症状を伴い最悪死に至るとどの本にも記述されているのに。勇猛果敢というか向こう見ずというか。でも実際にジェイドが気になったのはどちらかというと……。

「あの……あの、」
「ん?」
「……おいしいのですか?」
「俺はだいすき」
「だいすき」
「そう。人間だとイチコロかもだけど、まあ、俺、純人間ではないんでね」

#名前#が言う通り彼にキノコの毒はきかないし、奥深くまで行かずとも登山口周辺だけで十分な収穫量を得られるし、さらに美味いとくれば常に欠食がちな#名前#にとってうってつけな食材でしかない。
その後、#名前#は採取する手を止めることなく「食べると口の中びくんびくんするし舌も真っ赤んなるし、ちょっとお腹も痛くなるけどねー。ちゃんと毒抜きすればマシらしいんだけどめんどっちいから俺はそのまま食うね!でも毒持ちだったかあ、どうりでキノコ狩りの時期でも残ってるわけだわ」と独り言ともジェイドへ語りかけているともとれる口調で話を続けていた。口が痺れてお腹が痛くなる、それは十分に中毒症状の一種なのだが……そうツッコミを入れる余裕はジェイドにはない。#名前#の言葉に逐一「ええ、ええ」と相槌を打ちつつ彼の頭の中は「毒」「うんまい」「イチコロ」「だいすき」という言葉が無限ループしていたので。

「怖くはないのですか?万一があれば死んでしまうこともあると聞きましたが」
「ん〜〜、でも食ってみて死なんかったら食えるヤツってことじゃんね?」
「……なるほど?」
「だから試しに種族的に一番やばそうなの食ってみたわけ。そしたら大丈夫だったからもうそっから無敵よ」
「ふむ……」

ジェイドは足元に生える毒キノコを摘まみ採り、指先で転がしてじっくり観察した。純人間ではない彼が大丈夫ならば人魚である自分も平気なのでは?どんな味がするのだろう?毒と分かった今でも収穫する手を止めない彼を見るに、それほどにおいしいということでしょうね?……、…………。

――パク

「まぁ真似はしない方がいいと思うけどね……わぁ豪快だあ」
「………うっ!?、っくひのひゃかがひひれっ、」

手で口を押さえて咀嚼を続けるジェイド。呂律が回らないどころか途中から発声不可となり静かに震え出した。その場で座り込んで#名前#に助けを求めるように視線を送るが、何を勘違いしたのか#名前#は#名前#で手の中の毒キノコを自分の口へ放り込んだ。#名前#の髪の毛に潜り込んでいたナニカが飛び出しみょんみょんと動き回っている。
それから大げさにもぐもぐごくんと食べ終え、あろうことかさらに口の中をジェイドに見せつけている。何をしているんだこの同級生は。ジェイドが浅く呼吸を繰り返して何とか呼吸を整えようとしていると、#名前#はあろうことかじゃあもう1本!と追加で食べようとしたので慌ててその手を掴んで止める。

「あれ、違った?」
「みっ……みひゅ……くだひゃ、」
「あっそういう……ごめんごめん、どーぞ」

#名前#は自分のペットボトルを手渡そうとしたが、手に力が入らないのかジェイドがうまく受け取れなかったので、彼の鼻をつまんで強制的に水を口に流し込んでやった。ごぼごぼと噎せていたが背に腹は代えられない。

「っはぁ……はぁ、ん………」
「だいじょーぶ?ジェイドくん」

#名前#は求められれば水を、またはジェイドの痺れているであろう手や頬を揉んでやりながら彼の回復を待った。緊急性はなさそうだが毒キノコ初体験の同級生そっちのけでキノコ狩りを再開するほどのマイペースさはなかったので。
次第に震えは収まり、呼吸も落ち着いてきた。

「まだ立ち上がれそうにありませんが……もう大丈夫です」
「ジェイドくん、まだ顔赤いよ?」
「ええ、あまりにもおいしくてビックリしてしまって」

腰まで抜けてしまいました、と笑うジェイド。力が入らないのは中毒症状ではなかったらしい。

「しかし衝撃でしたね」
「うん。でも野生のキノコは軽くでも水洗いしてから食べた方がいいよ?」
「それはそうですが、好奇心には勝てませんでした」

ジェイドが受けた衝撃とは、味や中毒症状である痺れ自体もさることながら、陸上の生き物が陸上について書いた正しくて役に立つと思っていた、登山を好むジェイドにとってバイブルとも呼べるそれらが覆ることがあるなんて!!!!!確かに海に住まう者の知識とて条件が違えば正しいとも限らないのだ、陸上においてもさもありなん。

毒キノコの余波を受けていたジェイドは立ち上がれないこと以外特に問題なさそうだったので、。暗くなる前に獲れるだけ獲って帰りたい#名前#はキノコ狩りを再開させた。ジェイドはジェイドで今日は山に入る時間も余力もなく、#名前#の傍らで膝を抱えて座り込み、彼との会話を楽しむことにしたのだった。



「そういえば、なぜ貴方は僕が助けを求めたとき突然キノコを食べだしたのです?」
「え?だって“やっぱ毒じゃん!嘘つき!”って視線だと思ったから……」

少なくとも俺は食えるもーん!と行動で示したのだという。目の前で悶える同級生の救うことよりも自分の冤罪を晴らすことを優先する男。NRC生だから仕方がないのかもしれない。

「もう一度見せてもらってもいいですか?」
「いいよ?」
「一部始終お願いしますね」
「ほいほい」

ジェイドに言われた通り、#名前#は毒キノコを飲み込んでから「食べたよ?」と報告すると、ジェイドがトントンと自分の頬を指先で突いて示した。ああ、口の中も見せなさいということだろうと今度は正しくと伝わったので、んがあ、と口を開けてやる。ついでに、

「んべろお」
「っふふふ、真っ赤ですね?」

#名前#が突き出した舌はとても長くて、それは一見人間にしか見えない彼が人外であることの証明でもあった。


口に釘づけでナニカには目が言っていないジェイドくん。
あとからアズールとフロイドに言われて誘引突起のようなものの存在に気付くが、それでもいいと思っている


2022/11/10
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