ネタ
rkrn 作法委員会を取り巻く不思議(微トリ)A

(藤内視点)

「じゃあ…僕には、君の言うその卑怯さが温かいよ」
「…花を、買ってこなきゃ」
「今日も行くの?」
「…僕には、これくらいしかできないから」
「じゃあ僕もそろそろ」
「また、会えなくなるんですよね…」
「うーん、内容は言えないけど……今回はかなりやばいかも。死んじゃうかもね」

表情を変えずにそう言う綾部先輩の心の中は見えない。

「…!…そんな」
「嘘だよお、そんな簡単に死ぬわけないじゃん」
「……綾部先輩まで、死なないで…僕ら残して…いやだ、そんなの…」
「ほら、泣かないの。そんな泣きっ面生徒に見せるの?恥ずかしいよ先生のくせに」
「そう、ですね……」
「藤内は笑っててくれればいいよ。藤内が笑ってれば、皆しあわせになれるよ」
「あはは、そんなこと…」
「じゃあね」
「はい、ではまた」
「ばいばい」

綾部先輩はいつもみたいに、またね、とは言ってくれなくて、それがやっぱり悲しくて、でも、僕は彼に言われた通り、笑っていようと思った。






綾部先輩を見送った後、おはようございます、と元気な声と共に子ども達がやってきた。目が若干潤んでしまっているのは許してほしい。僕には優秀ない組のように感情をコントロールすることはできない。

「ねぇせんせい、せんせい、」
「ん?どうした…?」
「せんせい、目赤いよ」

町外れの、広さだけはある家屋を借りて、読み書きや勘定の仕方なんかを教えている。何かに影響されたわけじゃない。ただ、自分の取り柄を考えたら、作法委員会で養われた面倒見の良さと、人よりちょっとだけ座学ができることくらいだった。学園にいる彼らは元気にしているだろうか。元気にしていたら良いと思う。兵太夫は、大丈夫だろうか。



兵太夫宛ての手紙は、まだ彼の元には届かない。



立花先輩のように自ら悪役になることも、綾部先輩のように後輩を励ますことも、ましてや あの人 のように後輩を守ることも。たった一通の手紙を渡すことさえできずに、関わることを極端に避けて逃げ回る僕は、やっぱり卑怯だ。

僕は今、ちゃんと笑えているだろうか?



以降、綾部喜八郎の消息不明


2013/08/30
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