ネタ
tns 立海微ホラー@

奇妙な館に閉じ込められる話

柳は誰かに揺さぶられて目を覚ました。長く眠っていた気がする。薄っすら目を開けると仁王がいた、いつもの飄々とした面影はなく顔色が悪い。自分を起こしたのは仁王だったのか、と柳はぼやけた頭で思う。なぜか趣味の悪い赤い花びらに埋もれていて、柳は虫を退けるかのようにその花びらを手で払った。
仁王は柳の次に、真田と幸村を起こしていく。仁王に起こされた2人も柳と同様に、現状を理解できていないという風に言葉を失った。一方で丸井は既に起きていて、辺りの様子を窺っているようだった。

「何かここ、柳ん家のペンションに似てね?」

ほら、中2んとき合宿した……。丸井はそう言葉を続けた。丸井のその一言で思考が動き出す。確かに丸井が言う通り、今いる場所は自分たちが中学2年のときに合宿所として利用した、柳の親戚が経営しているというペンションによく似ていた。

「確かに似ている……しかし」
「ああ、周囲の様子がおかしい」

真田と柳が丸井の言葉を否定する。あのときのペンションと比較するなら、決定的に異なる点が1つあった。周りが深い森に閉ざされているということだ。町に繋がる道1つない。木々が騒めくだけで森閑としているこの場所はただただ異様だった。

なぜ自分たちがこんな場所で横たわっていたのか。すぐ近くに転がっているバッグは合宿に参加する際に使用する物で、自分たちがU-17の合宿に参加する予定であったことを思い出す。確か、去年の代表選手は先行して合宿に参加する旨の要請があったはずだ。
あとは記憶が欠落しているのか、いくら考えても何も思い出せない。ただ、合宿所がこんな場所であるわけがないことは間違いないだろう。

「また氷帝の跡部の仕業かのぅ」
「…だったらいいけどね」

仁王が言うまたというのは、かつて氷帝の跡部や榊に嵌められる形で行われた、無人島でのサバイバル合宿のことを指していると思われる。それが希望的観測でしかないことは皆が理解していた。

「こんなところに座っていても埒が明かないし、とりあえず建物の中に入ろうか」

幸村は制服に纏わりついた赤い花びらを払いながら立ち上がった。こういう状況下で仲間がいるというのはとても心強い。いつものようにリーダーシップを発揮する幸村を見て、各々いつもの調子が戻って来たようだった。
真田の「おい赤也!起きんか!」という大声で、柳は切原以外にもう1人起こさねばならぬ人物を思い出す。

「#名前#、起きろ」
「んん……柳、さん?」

柳は、すぐ隣でやはり赤い花びらに埋もれて横たわっていた#苗字##名前#を揺り動かした。#苗字#は切原と同学年のマネージャーだ。働き者で部員からは非常に好かれている。付け加えるなら、見目も整っているのでマネージャーとしてだけでなく女性としても好意を抱く部員も少なくない。

仁王は後輩たちをあえて起こさず寝かせたままにしていたようだ。そしてその選択は正解だと柳は思った。自分たちのうろたえる姿を見せて過剰に心配させる必要はない。今はもういつもの頼れる先輩たちに戻れているはずだ。

「おはようございます…あれ…?」
「ああ、おはよう」

柳と#苗字#が会話する様子を、仁王は怪訝そうな表情で見つめていた。


2020/06/21
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