用事があって私はシャロンを探して校内をウロウロする。
ウッドは図書館でパーシーと勉強していたし、談話室も大広間にも居ない。
残るはハグリッドの小屋で、時間もあるしのんびり向かう。
すっかり季節は春に近付いて寒さも和らいできた。
小屋の扉をノックすると中からファングの鳴き声が聞こえてくる。
次いでハグリッドの声がして名前を名乗ると顔が覗く。
「名前か…今はちょっと…いや、名前ならええか。入れや」
促されるまま小屋に入るとファングに飛び付かれ、そしてある生物が目に入る。
実物を見るのは初めてだけれど、散々チャーリーやシャロンが話していた。
それに、私自身も図書館で何冊か読んだ事がある。
「ハグリッド、どうしたの、これ」
「まあ、ちぃとな。秘密にしてくれよ」
曖昧に頷いてドラゴンを見ると正に炎を吐こうとしていた。
さっと避けると吐かれた炎はハグリッドの髪を燃やす。
よく見ればあちこちちぢれている毛がある。
多分こうして燃やされるのは初めてじゃないのだろう。
「どうするの、この子」
「ノーバートだ。チャーリーに頼む事になっとる」
「チャーリーならピッタリね」
「ああ。だか、心配だ」
ハグリッドはまるで小さなペットに話しかけるかのようにノーバートに話しかける。
ハグリッドがドラゴン好きなのは充分知っていたけれど、流石に小さなペットには思えない。
チェシャーと同じ位の大きさなのにノーバートはまだ子供なのだ。
「そうだわ、ハグリッド。シャロン知らない?」
「シャロンなら今森で鼠を探しとる。ノーバートが食べる分だ」
なるほど、と頷かずにはいられない。
普段からシャロンとハグリッドはドラゴンの話をする。
そしてシャロンは将来チャーリーと同じ研究所に行くのが目標だ。
こんな機会は滅多にないのだからハグリッドが教えたのだろう。
ノーバートから離れた所でファングを撫でてシャロンの帰りを待つ。
ファングの方が可愛く見えるのは私だけではない筈。
「来たよ、ハグリッド…名前?」
「ハイ、ロン。ロンも知ってたの?」
「あ、うん。でも、なんていうか」
言いにくそうに肩を竦めたロンに苦笑いを返す。
ロンはハグリッドにチャーリーからだと手紙を渡すと私の隣に来てファングを撫でた。
ハグリッドは渋々手紙を取り出し、目を通し始める。
「あの、チャーリーが名前は元気か?って」
「じゃあ、今度手紙を書くわ」
「うん、喜ぶと思う。あと、ごめんなさい」
「え?」
突然の謝罪に驚いてロンを見ると気まずそうな顔で視線を彷徨わせていた。
ロンに謝られるような事をされただろうか。
考えても特に思い付かず、ロンの言葉を待つ。
「僕、名前が…その、マルフォイの味方なんじゃないかって。ビルに手紙を書いたんだ。名前はビルと仲良しだから」
ロンに言われてああ、と納得する。
どうやら図書館での一件から今まで私を避けていた事を言っているらしい。
確かにロンは私がハリーやハーマイオニーと話していると近寄って来なかった。
クィディッチの時もわざわざ間にハーマイオニーを座らせていたし。
お陰で私はロンとドラコの喧嘩には気付かなかったのだけれど。
「ビルはなんて?」
「名前は名前で、マルフォイの味方だとか僕の味方だとかどうでも良い事だって」
「うん」
「名前を無視してたら、名前が悲しむって言われて」
段々声が小さくなって俯いてしまったロンの頭を撫でる。
別に私は怒っている訳ではないし、ドラコと対立する気持ちも仕方のない事だ。
どちらかというと悪いのはドラコなのだから。
ロンに笑顔を向けるとロンもぎこちなく笑った。
「ハグリッド!捕まえてきたわよ!…って、名前とロンだわ」
シャロンの片手には鼠の沢山入った籠。
ハグリッドは手紙を放り出してノーバートに鼠を差し出し始める。
危うくノーバートに燃やされそうになったチャーリーの手紙に慌てて手を伸ばす。
なんとかキャッチした私は同じく手を伸ばしたロンと顔を見合わせて笑った。
(20121013)
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