イースター休暇の山のような課題を片付けた私は、大広間でビルから貰った呪文集を捲る。
知っている呪文も幾つかあったけれど、殆ど知らない呪文だった。
パラパラと捲っていると守護霊と書いてあるページが目につく。
ディメンターを追い払ったり伝言を伝える事が出来るという事が書いてある。
ディメンターはよく解らないけれど、守護霊の形に興味が湧く。
動物の形だというけれど、私のは何だろうか。
本に書いてある呪文を何回か呟いて杖を持って唱えてみる。
杖の先から銀色の靄が出ただけで動物の形にはならなかった。
練習して使えるようになればきっと何の動物かが解るだろう。
オレンジジュースをグラスに注いでいると爆発音がした。
音がした方を見るとシェーマスが真っ黒になっている。
オレンジジュースを飲みながら守護霊の呪文の理論を読む。
私にとってとびっきり幸せな思い出とは何だろう。
ビルやチャーリーと過ごしたホグワーツでの生活。
パーシーが大分角が取れて丸くなった事。
フレッドとジョージが懐いてくれて慕ってくれる。
シャロンという素敵な親友と出会えた。
色々と思い浮かべてピンと来たのはビルと過ごしたクリスマス。
ホグワーツで一緒に踊ったり、マグルの世界で買い物をしたり。
思い浮かべながら呪文を唱えると今度はハッキリとした形が見えた。
ビルの事を考えていたからか、イタチだった事に思わず笑ってしまう。
今度ビルへの手紙に守護霊の事を書こうと決めてまたパラパラと捲る。
「名字」
名前を呼ばれて顔を上げると立っていたのはドラコ。
何気なく顔を確認して痕が残っていない事にホッとする。
あの試合以来ドラコの姿を見たのは初めてだった。
しかし此処は大広間で、沢山の生徒が課題をやったりおやつを食べていたり。
「ドラコ、どうしたの?」
私の質問に答えずに着いてこいというジェスチャーをする。
オレンジジュースを飲み干して呪文集を手に立ち上がるとドラコが大広間から出て行くところだった。
慌てて追いかけるとドラコは一定の距離を保って歩いていく。
人気のない廊下まで来るとドラコが立ち止まったので私も立ち止まる。
保っていた距離は勿論手を伸ばせば届く距離まで縮めて。
「これを、」
そっぽを向いたまま小さな包みを差し出した。
綺麗な深い緑色の包装紙に、銀色のリボン。
スリザリンカラーだなと思いながら包みとドラコを見比べる。
早く受け取れと言わんばかりにドラコが腕を揺らした。
「貰って良いの?」
「ああ」
受け取って破らないように気を付けながら包みを開く。
中からはどこからどう見ても生地の良さそうなハンカチが出てくる。
何事だとドラコを見ると決まり悪そうな表情で顔を逸らされた。
「…この間、汚してしまっただろう」
「気にしなくて良いのに」
「僕が嫌なんだ!借りは作らない」
「そういうつもりじゃなかったんだけど…有難うドラコ。大切にするわ」
フン、と鼻を鳴らしたドラコはそれじゃあと言って歩き出す。
純血ではない私に此処までしてくれるなんて、さすが育ちが良い。
とりあえず綺麗に包み直そうとしたら一枚カードが落ちる。
拾って裏返すと恐らくドラコの手書きの文字。
「有難うなんて、似合わない」
嬉しさと可愛いという思いで漏れた笑いをなんとか堪える。
けれどあんまり堪えきれる自信はない。
(20121013)
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