クリスマス前日、家に帰っていた私の元にチェシャーが手紙を運んできた。
見慣れた文字が見えたので直ぐに手紙を開くとビルからで、私は大慌てで返事を書いてチェシャーにお願いする。


次の日、そわそわとする私を笑うお母さんとお父さんはにこにこ笑いながら出掛けていった。
本当は私と三人で映画を見て夕食の予定だったけれど、私はそれどころではない。
最初は残念そうにしていたけれどデートだと考える事にしたようで、ルンルンだった。


チラリと時計を見て本を開いてみるけれど集中出来ない。
本を閉じてさあどうしようという時、玄関のチャイムが鳴った。
慌てて玄関まで走って扉を開くと私の大好きなビルの姿。


「ハイ、名前。時間よりちょっと早かったかな」

「大丈夫。どうぞ、上がって」


ビルの手を引いてリビングまで進む。
マグルの、ましてや自分の家にビルが居るなんて不思議な光景。
アーサーさんが聞いたらとても羨ましがりそうだ。
紅茶を準備しながらそんな事を考えているとビルがテレビを観察している。


「見る?」

「いや、良いよ。父さんだったら喜んで見るだろうけど」

「確かにね」


喜んでテレビを見るアーサーさんが簡単に想像出来た。
今度アーサーさんを招待するのも良いかもしれない。
そう提案しながら紅茶をビルの前に置いて私も隣に座る。
そこで私は初めて隠れ穴に行った時の事を思い出した。
ビルも同じ事を考えていたようで、お互い苦笑い。


「ビルは、ルーマニアには行かないの?」

「知らなかったんだよ。せっかく戻って来たのに誰も居ないんだ」


そう言って紅茶を飲むビルはとても残念そうに見える。
だから、でも名前が居た、なんて嬉しそうに言われては私はとても幸せだ。
自然と緩んでしまう頬をそのままに紅茶をちびちびと飲む。


「今日はどうしようか?名前の行きたい所なら何処でも連れてくよ」


そう言われて何も考えていなかった私は困ってしまった。
正直な話、ビルと一緒ならば何処だって素敵になる。
それこそこのまま家でまったりと過ごしたって充分だ。
確かお父さんが最近買ったチェスがある筈なのでチェスをしても良い。
うんうん悩む私の頭をビルの大きな手が撫でる。
いつでも安心するビルの手。


「マグルの世界でも大丈夫だよ」

「じゃあ、お買い物でも良い?」

「良いよ」


そうと決まれば、と紅茶を飲み干してコートを着る。
ふわふわ気分で歩く私を笑うビルが隣を歩く。
辺りは人が多くあちこちからクリスマスソングが聞こえる。


「マグル学の教科書で見た事あるけど、大分違うよね」

「教科書は、ちょっと古いかも」

「名前が居なかったら歩けないな」


いつもとは立場が変わったビルの手を取ると、ビルも笑って握ってくれた。




(20121009)
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