あの廊下での出来事以来見事にパーシーを見かけなくなった。
以前は廊下や談話室で見かけていた時間でも全く見ない。
これは完全に避けられている気がする。
はぁ、と溜息を吐いて教科書を閉じた。
「ハイ、名前。悩み事か?」
「チャーリー」
隣に座ったチャーリーはどうした?と首を傾げる。
確かにチャーリーなら何かしらの理由が解るかもしれない。
ぐるぐると頭の中を巡る言葉をどう伝えようかと悩む。
「言いにくかったら、また準備が出来たらで良い」
笑って私の頭をくしゃくしゃと撫でてくれるチャーリーはやっぱりビルと兄弟だ。
でもビルに持つ感情とは違うからやっぱり私はビルが好きなのだろう。
勿論チャーリーもお兄ちゃんみたいで大好きだけど。
「そうそう、これを渡そうと思ったんだ。クィディッチ今昔」
「わあ!有難うチャーリー!図書館に行ってもいつも貸し出し中なの」
「ゆっくり読むと良いよ」
「私頑張ってクィディッチの事覚えるわ!」
今受け取ったばかりのクィディッチ今昔をパラパラと捲る。
相当に読み込まれている事がそれだけで解る位の本。
そっと閉じると古い本独特の匂いがした。
「ハイ、名前。チャーリー」
「ハイ、ビル」
「ビル!」
今談話室に入って来たらしいビルは鞄を床に置いて私の隣に座る。
それだけで私の頬は緩んでしまうからビルは凄い。
「何を話していたんだい?」
「ああ、名前が溜息吐いてたんだよ」
「悩み事?」
ビルまで加わってうーんと頭を捻って実は、と話し出す。
あの廊下での出来事、最近パーシーに避けられているんじゃないかという事。
二人は真剣に聞いてくれているようで、私が話し終わるまで口を開かなかった。
「パースと喧嘩ねぇ」
「家じゃしょっちゅうだけどな」
「確かに。名前は、パースと仲良くしてくれてるんだね」
そしてビルが笑うから私は顔を見れなくなってしまって俯くと大きな手が撫でていく。
この兄弟は人の頭を撫でるのが好きなようだ。
妹が居ると言っていたからもしかしたらそれが日常なのかもしれない。
パーシーには常に呆れられているから仲良くしているかは解らないけれど。
もしかしたら私の一方通行という事もあるかもしれない。
「少しとっつきにくい所があるからな、パースは」
「まあね、不器用だよね」
「ビルとチャーリーの事は好きみたいだけど」
私が何気なく言った言葉に二人は目を丸くして笑った。
いつも呆れられた後によくパーシーはビルなら、チャーリーなら、と口にする。
それを聞く度にパーシーは二人の事が大好きなのだなと思う。
そう思いながらニコニコしていると聞いているのかと怒られるのだけど。
「僕とチャーリーでなんとなくパースに聞いてみるよ」
「有難う、ビル。チャーリー」
構わないと二人が笑った時、チャーリーを呼ぶ声がしてチャーリーは慌ててそちらに向かった。
それを目で追っているとビルがキャプテンは大変だな、なんて笑う。
よく見ればチャーリーを呼んだのはこの間の練習の時に見た顔だった。
監督生にクィディッチのキャプテンだなんてチャーリーは忙しそうなのには頷ける。
首を元に戻せばビルが乾かしていた私のレポートを眺めていた。
二回読み直したから間違いは無い筈なのだけれどドキドキしてしまう。
「よく出来てるよ」
「有難う!あ、ビル、フレッドとジョージって、知ってる?」
「うん、知ってるよ。弟だからね。悪戯小僧なんだ」
その言葉を聞いた瞬間なんだか納得してしまった。
ちょっとした悪戯にあんなに怒ったのはきっと日常的に悪戯されているから。
でも私とその二人を間違えるなんて、パーシーらしくない。
「何で知ってるの?」
「パーシーの脇腹をつついた時にそう言ったの」
「名前とフレッド、ジョージを間違えるなんて、らしくないね」
ビルも私が思っている事と同じ事を考えていたようだ。
そもそも休暇が終わったばかりなら間違えても仕方が無いとは思う。
もしかしたら何か家での事を思い出させてしまったのだろうか。
そしてつい口から出てしまったのかもしれない。
うんうん、考えていたら不意に髪の毛を梳く指の感触がしてそちらを向くとビルと目が合う。
「名前は可愛い女の子なのにね」
ビルが落とした爆弾の威力はとてつもなく強力だった。
(20120624)
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