バレンタインデーの朝、チェシャーがビルの手紙と共に一輪の薔薇を運んできた。
薔薇には差出人の名前は無かったけれど誰かなんて直ぐに解る。
フリットウィック先生に教えて貰い、枯れないようにと加工をした。
今は箱の中で花だけになって綺麗な姿を保っている。
写真立ての横に置く事を決めて薔薇の箱を手の中で回す。


ちなみにパーシーは今年は魔法界の歴史の本だった。
去年までの監督生関連の本よりとても良い。
チャーリーは茶葉をくれたけれど、淹れて貰いたいので半分返却した。
勿論、いつでも淹れて貰える約束をして。


「僕等のお姫様は薔薇に夢中みたいだ」

「その瞳を少しでも我等に向けてはくれませぬか」


両側から聞こえる声に順番に顔を見ると二人が同時に何かを差し出す。
動きがピッタリと揃っているのは流石双子。
差し出されたのは小さな箱が二つでそれぞれを受け取る。
すると二つの箱が震えだしてカナリアがそれぞれの箱から出てきた。
目で追うとカナリアはくるくると踊るように飛ぶ。
そして私の手に止まるとキャンディーとキャラメルに変わった。


「素敵だわ!」

「良かった。僕等で一週間かけて作ったんだ」

「名前が喜んでくれるようにってね」

「それでレポートをやらなかったのね?」


二人は言葉に詰まったらしく、それぞれ頭を掻く。
そんな二人が面白くて笑いながらキャンディーを一粒口に入れる。
オレンジの味が口の中に広がって、とても美味しい。


「美味しいキャンディーと可愛いカナリアを貰ったから何も言わないわ」


私の名前を呼んで抱きつく二人の頭を撫でる。
なんだかんだ言って慕ってくれる年下の二人には甘い。
悪戯ばっかりで課題をやらないけれど。


「明日、レポートやるよ。名前、手伝ってくれる?」

「良いわよ。ジョージも?」

「あ…うん、多分大丈夫」

「そう。じゃあ明日ね」




約束通りフレッドが向かい側に座って教科書と睨めっこをしている。
私はマグル学の教科書を片手にボーっとそれを眺めていた。
魔法使いの観点から見たマグルの生活はとても面白い。
けれど、知っているだけに偶にこうして読むのが億劫になる。
純粋な魔法使いならばきっと新鮮で不可解な物なのだろう。


「ジョージ遅いな」

「授業一緒だったんでしょ?」

「うん。でも途中でリーに連れてかれてさ。もしかしたら告白かも」

「あら、ジョージはモテるのね」


ビルだってチャーリーだってモテモテなのだ。
その兄弟ならモテたって全く不思議ではない。
今は幼くて可愛いジニーもいつかは告白されるのだろう。
フレッドが、あ、と声を出したので振り返るとジョージが此方に向かう途中だった。


「お帰り相棒」

「お帰りなさい、ジョージ」

「ただいま」


ボスっとソファーに座ると無言で教科書や書きかけのレポートを出し始める。
フレッドはすっかりレポートから気持ちが離れてジョージに質問したいという顔。
多分もうすぐ口を開いて質問する筈。


「どんな子だ?」

「名前も知らない子。ハッフルパフ」

「返事は?」

「断ったよ。名前も知らないのに」

「モテるのね、ジョージ」


私がぽつりと言うとジョージは気まずそうな顔をして頭を掻く。
フレッドと目を合わせてもう一度ジョージを見ると小声で何かを言った。
あまりにも声が小さくて聞き取れず、フレッドが促す。


「フレッドが好きなんだってさ」

「あー…そういう事か」


うんうんと頷くフレッドは再び羽根ペンを動かし始める。
手を伸ばしてジョージの頭を撫でると真っ赤な顔でレポートをやるからと怒られてしまった。
間違えられる事は本人達も楽しんでいる節があるけれど、今回はそんなに嫌だったのだろうか。




(20120912)
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