名前を知らないハッフルパフの上級生。
大広間を出たところで声を掛けられて人気のない場所まで連れてこられた。
向かい合って暫く経つけれど彼はまだ喋ろうとはしない。
視線を彷徨わせて意を決したように彼は息を吸った。
「あの、その…俺、君の事が好きなんだ」
名前を名乗るよりも前にいきなりの告白。
ご丁寧にお断りをしてグリフィンドール棟へと向かう。
雪が降り始めて寒くなった城内は冷たい風が吹き抜ける。
真っ直ぐ気持ちをぶつけられるのは初めてだった。
ビルもこんな気持ちだったのだろうか。
気持ちに応えられなくて落ち込んでしまう。
暗くなってきた城内は人が全く居らず、風で炎が揺れた。
立ち止まって降ってくる雪を眺める。
雪が積もるようにきっと人の想いも積もっていく。
私のビルへの想いだったりパーシーの野心だったりチャーリーのドラゴンへの興味だったり。
雪と違うのは溶けて消える事が無いところだろうか。
不意に気配を感じて振り返ると半月型の眼鏡の奥の青い瞳があった。
いつから其処に居たのかは解らないけれど穏やかに微笑んでいる。
「こんばんは、ダンブルドア先生」
「こんばんは、ミス名字。雪の夜に、散歩かの?」
「あ、ええと…そんなところです」
上々、と呟いたダンブルドア先生は隣に立って同じように降る雪を見上げる。
あまり個人的に話をした事は無く、思い出すのは一年生の時のクリスマス。
サンタ帽を被ってお揃いだと笑う先生はとても無邪気でまるで子供のようだった。
「ミネルバが言っておったよ。君はよく頑張っておると」
「あ、有難う御座います」
「それだけ頑張っておれば、君の心を曇らせる事もあるじゃろうの」
思わずダンブルドア先生を見上げると先生は相変わらず雪を見ている。
なんとなく目を離せないでいると青い瞳が此方を向く。
キラキラとしていてまるでビルから貰ったブックマーカーのようだ。
青い瞳が私の後ろに移ったので追うように振り返る。
チャーリーが少し驚いた顔で立っていた。
「こんばんは、ダンブルドア先生」
「こんばんは、ミスターウィーズリー。さあ、お迎えが来たようじゃの。遅くなる前に寮に帰りなさい」
先生におやすみなさいを告げて再びグリフィンドール棟へ歩き出す。
さっきは一人分だった足音が今度は二人分。
風で廊下の火が揺れて私とチャーリーの影を揺らす。
談話室の近くまで来て、チャーリーが足を止めた。
同じように足を止めて見上げようとした頭に大きな手が置かれる。
「シャロンが告白だって騒いでたけど、相手に何かされたか?落ち込んでる」
「あ、何もされてないわ。ただ、応えられないから」
「あぁ…まあ、そうだなぁ」
ゆっくり階段を登り始めたチャーリーに合わせて足を動かす。
この階段を登ればもう談話室は直ぐそこ。
足を止めた事に気付かず、一段下を振り返る。
一段上に居るのにチャーリーの方が背が高い。
「応えられないのは、仕方無い。気にする事が悪い事じゃないけどな」
言葉を切ったチャーリーは階段を一段上がり、私の頭を撫でる。
頭の後ろに手が回ったと思ったらそのまま引き寄せられて視界にはチャーリーの胸。
抱き締められた訳では無いけれど、いつもよりも近い位置。
「いい加減な気持ちで相手に向き合った訳じゃない。落ち込まなくて良い」
「うん、有難うチャーリー」
「あー!名前に何するのよ!」
「シャロン?」
いきなり聞こえた声の次に腕を引かれたと思ったら私はシャロンの腕の中。
腕を引かれて歩き出した時には後ろのチャーリーは本当に優しく笑っていた。
(20120912)
58