楽しい休暇は矢のように時間が過ぎていく。
新学期が始まって、また私の忙しい日常が始まった。
ビルから貰った時間割を教えてくれる手帳は相変わらず重宝している。
大雪で魔法生物飼育学が休講になり、レポートをやる為に談話室に戻ってきた。
魔法生物飼育学が好きなシャロンはショックだったようで机に突っ伏している。
そんなシャロンを突っついて教科書を開く。
けれどシャロンの羽根ペンは動かずふわふわしている。
「チャーリーに本借りようかしら」
「本?」
「うん。ドラゴンの本。チャーリー、何冊か持ってるのよ」
「シャロンも好きなの?」
「勿論!卒業したらチャーリーが行きたいって言っている研究所に行きたいわ」
研究所?と首を傾げた私を見た途端にシャロンはしまったという顔をした。
話の流れからして研究所というのは多分ドラゴンの研究所だろう。
チャーリーが行きたいというのはよく解る気がする。
よくハグリッドの所にシャロンと行きドラゴンの話をしているらしい。
何が問題か解らず、考えているとシャロンに話題を変えられてしまった。
夜、大広間に入るといつものように双子に挟まれて座り、少し離れた場所にチャーリーとシャロン。
何か真剣に話しているようで聞いてみるのは後回し。
いきなり目の前に出てきたオレンジジュースを受け取ると反対側から手が伸びてきた。
「ジョージ?」
「名前、チャーリーが気になるの?」
「ちょっと聞きたい事があっただけよ」
「ふぅん」
曖昧な返事をしたジョージはチャーリーをジッと見つめる。
フレッドも同じようにチャーリーを見つめていたけれど直ぐに夕食に手を伸ばし始めた。
暫くして向かい側に座ったパーシーが授業の話を始めるとやっとジョージは視線を逸らす。
「ねえ、パーシー」
「何だい?」
「チャーリーが卒業したらどうするか知ってる?」
「いや、聞いていないな。でも魔法省じゃない事は確かだよ」
お礼を言って両隣に悪戯しないように注意をしてオレンジジュースを飲む。
考えていても仕方ないし、あとで談話室で聞けば良い。
ビルとは違う意味でチャーリーの事は大好きだ。
いつもそれとなく気にかけて紅茶を淹れて話を聞いてくれる。
チャーリー自身だって色々と忙しい筈なのに。
談話室に戻るまでパーシーの魔法省の話を双子が大人しく聞く筈もなく、ちょっとした騒ぎがあった。
フィルチに見つからないうちに、と走っているとチャーリーにぶつかる。
そのままチャーリーの腕をフレッドが掴んで談話室まで全速力。
着いた途端に床にへたり込んだ私をチャーリーがソファーまで支えて連れて行ってくれた。
双子はパーシーに会わないようにと大慌てで部屋へと上がっていく。
「大丈夫か?」
「大変だった、わ」
「うん」
そういえばチャーリーと居たシャロンは置き去りだ。
もしかしたら今頃パーシーに捕まって愚痴を聞かされているかもしれない。
後でシャロンに謝っておこう。
息を整えながらチャーリーを見る。
チャーリーも私を見て話が、と口を開いた。
「シャロンから、聞いただろ?研究所の話。卒業したら、そこに行けたら良いと思ってる」
「うん」
「ただ、ルーマニアなんだよ、その研究所」
ルーマニア、ぐるぐるとその言葉が頭の中を回る。
ビルのエジプト行きを聞いた時と同じ衝撃。
チャーリーも外国へ行ってしまうかもしれない。
「遠い、のね。シャロンも行きたいと言っていたわ」
「でも、一生会えなくなる訳じゃないし、ビルみたいに戻ってくるつもりだ」
「…そうね。研究所に行けるように応援してるわ」
チャーリーは嬉しそうに笑って大きな手が私の頭を撫でた。
(20120907)
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