大広間に入ると一層強まった甘い香りと共に赤毛の二人が駆け寄ってきた。
私の目の前で立ち止まって満面の笑みを浮かべ同じタイミングでトリック・オア・トリートと手を差し出す。
その手の上にキャンディーを一つずつ乗せて私はチャーリーとシャロンの待つ席に座る。
二人は後ろから慌てて付いて来てまた左右に座った。


「名前、今日一日探したんだよ。それこそ城の隅々まで。なあ、ジョージ?」

「あぁ、フレッド。珍しく図書館にまで足を運んだのさ」

「残念ね。今日は図書館行ってないのよ」


パースに会ったんだ!と騒ぎ出す二人に向かい側に座るパーシーが眉を寄せる。
パーシーとフレッドとジョージが揃えばなんとなく起こる事は予想出来た。
そして、二人がくすくす笑っているのを見る限りその考えは当たっていると思う。
かぼちゃパイを食べながらパーシーを眺めていたら顔を逸らされた。
控えめに服を引っ張られてそちらを向いても何食わぬ顔でチャーリーと話すジョージ。
気のせいか、とパーシーにかぼちゃジュースを取って貰おうと声をかけると反対側から差し出された。


「はい、かぼちゃジュース」

「あ、有難う、ジョージ」

「どう致しまして」


これも!とフレッドが差し出したかぼちゃパイを受け取る。
もっと取れと言われそうだったので慌てて断るとフレッドはしょんぼりしてしまった。
それを見てチャーリーがお腹を抱えて笑う。
私は何がおかしいのかさっぱり解らなくて首を傾げるだけだった。


寮に戻ってからシャロンに頼んで借りたカタログを手にぼんやりと過ごす。
途中でリー・ジョーダンと何処かへ居なくなった双子が居らず寮は静かだ。
適度に賑やかではあるけれど、あの二人がいると賑やかさはかなり増す。
隣でチャーリーがレポートを書いている羽根ペンの音がしっかり聞こえるくらい今は静かだ。


「今年は何にするんだ?」

「うーん…どうしよう」

「来年もそうやって悩むんだろうな」

「当たり前じゃない。ビルへのプレゼントはいつでも悩むわ」


チャーリーが笑うので脇腹を軽くつついてやる。
カタログに目を戻してふと目に止まったのは写真立て。
去年ビルに渡した物で私も持っている物。
カタログを閉じて息を吐くとチャーリーが私の頭を撫でる。


「ビルならなんでも喜ぶと思うけど」

「そうね。無言呪文って何?」

「呪文を唱えずに魔法を使うんだ。難しいけど出来るようになれば色々便利だな」


ビルが何度か使っていた事を思い出した。
不思議に思っていた疑問が一つ解決する。
チャーリーに教科書を借りて読んでみるととても難しいらしい。
けれど習得出来れば良いなぁと文章を追う。


「熱心だな」

「チャーリーは出来る?」

「うん、なんとかな」

「難しいのね。二年生では無理かしら」

「名前、挑戦してみるつもりか?」


目を丸くしたチャーリーに頷くと仕方ないなぁと笑った。
お約束のように無理はするなと言われたのは予想通り。




(20120728)
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