トランクを閉めて私は枕元の写真立てを見た。
ビルの誕生日に贈った物と色違いの写真立て。
その中にはこの間皆で撮った写真と家族の写真、そしてビルとのツーショットが入っている。
今は皆で撮った写真が表示されていて、皆笑っていた。
談話室に降りていくとすっかり皆寝てしまったらしく、とても静か。
暖炉の側のソファーに近付くと赤毛が目に入った。
ソファーに寝転がって暖炉の炎を見つめている。
静かな中、小声で彼の名を呼ぶとその目が私を捉えた。
「名前」
大好きな声と大好きな笑顔、大好きなビル。
体を起こしたビルの隣に座って一緒に炎を見つめる。
「眠れないの?」
「名前こそ」
炎から目を逸らすと相変わらず炎を見つめているビルの目。
何を思っているのかなんて私には到底解らない。
ただビルの横顔が綺麗で見とれてしまった。
不意に此方を向いたビルの瞳はとても綺麗。
「名前、探検に付き合ってくれない?」
ウインクをしてビルが手を差し出す。
私は一度頷いてビルの手を取った。
夜の校舎は月の明かりで一杯でとても静か。
何処までも続くように見える廊下を見つからないようビルと並んで歩く。
特に会話は無いけれど、少し寂しくてとても幸せ。
偶に目が合うと優しく笑ってくれる。
「あれ?こんな所に扉あったっけ?」
ビルの声にそちらを見ると大きな扉があった。
特に何も考えずに扉を開くと其処は小さな部屋。
恐る恐る中に入っても特に何も起こらない。
教室のようにテーブルは無いけれど隅に一組だけあった。
部屋を見渡しているとビルに呼ばれる。
ビルが杖を振ると私の服がドレスに変わった。
薄いピンク色でウエストは絞られていて腰には黒色の大きなリボンがついている。
ビルはシンプルなドレスローブでとてもかっこいい。
「ドレスは本物じゃないけど…踊ろうか?」
差し出された手を取るのは二回目。
以前は二人とも私服で、私はサンタ帽を被っていた。
まだ私の心の中には色褪せる事なく残っている。
きっと、この先も色褪せる事はないかもしれない。
いつの間にか蓄音機から音楽が流れ出していた。
さっきまでは無かった筈なのに。
クリスマスの時も思ったけれどビルはダンスが上手だ。
身長差はかなりあるのにそんな事全く感じさせない。
見上げるビルの顔はクリスマスと同じで優しく笑っていた。
「ねえ、ビル」
「ん?」
音楽が止まって二人の足も止まり、私は口を開く。
片手はビルの大きな手と繋がったまま。
真っ直ぐビルを見上げて私は息を吸いこむ。
「あのね、いつか…私が今のビルの年になったら、聞いて欲しい事があるの」
「そんなに先までお預け?」
きょとんとした顔でビルは首を傾げる。
私が言葉ではなく頷く事で答えるとビルはふんわりと笑った。
一年間いつでも見せてくれた私の大好きな笑顔。
「待ってる」
ビルはそう言って私の手の甲にキスをした。
(20120712)
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