出来上がった書類を纏めながらふとカレンダーが目に入った。
そういえば、もう随分ジョージに会っていない。
最後に会ったのはフレッドのお見舞いに行った日。
一瞬あの日のジョージの笑顔が浮かんだ。
いつの間にあんな表情が出来るようになったのだろう。
知っていた筈なのに、改めて思い知らされた気分。
ぶんぶんと首を振って出来上がった書類を端に置く。
時計を見るともう昼休みの時間だった。
背伸びをすると固まっていた肩が音を立てる。
「名前、お昼一緒にどう?」
「うん、行く!」
お財布を持ってビルと一緒にダイアゴン横丁へ向かう。
漏れ鍋も良いけれど、グリンゴッツの近くに美味しいお店がある。
ビルに教えて貰ってからはお気に入りのお店だった。
そのお店でビルと偶にこうやってお昼を食べる。
時にはフラーも一緒だったり、フラーと二人だったり。
いつものサンドイッチと紅茶を頼むとビルに笑われた。
美味しいから食べたくなってしまうのは仕方がないと思う。
そういうビルだって頼む物は大体決まっている。
「そういえば、フレッドとジョージのお店に誘われてたんだって?」
「え?何で知ってるの?」
「ジョージに聞いた。この間家に来たんだよ」
ジョージと会っていないと考えていた時にタイミングの良い話。
断りの手紙の返事はいつも通りのジョージの手紙だった。
フレッドは断られるのが解っていたというから流石だと思う。
「ジョージ、元気だった?」
「元気だったよ。会ってないの?」
「うん」
「意外だね。ジョージは名前にベッタリな印象なんだけど」
曖昧に返事をしてサンドイッチをかじる。
シャキッとキャベツが音を立てた。
閉店間際なのにまだまだ人が居て、姿を見られずに済む。
別に気まずい訳ではないのだけど気後れしてしまう。
久しぶりに会うから、という理由だけではないような気もする。
深呼吸をして気合いを入れてから扉を開くと直ぐにフレッドと出会った。
「やあ名前。ビルに悪戯でもするのか?オススメは」
「違う違う。久しぶりに来ただけよ」
「じゃあちょっと待っててくれよ。閉店までもう少しだから」
フレッドが親指で奥を指すので人を掻き分けて進む。
相変わらず人気な二人のお店はとても賑やかだ。
ホグワーツへの通信販売も変わらずやっているらしい。
二人の部屋はいつも決して片付いているとは言えなかった。
今もそれは変わらなくて、あちこちに服や書類が散らばっている。
魔法を使っても良かったけれど、あえて自分の手で服を拾う。
洗濯済みとそうでない物を分けながら籠に入れていく。
それが終わると洗濯済みの服を片付ける。
それだけで部屋が片付いて見えるから少しの達成感。
掃除は魔法をかけた箒にやって貰うとして、窓を開けた。
「お、なんか部屋が綺麗」
「あら、お店終わったの?」
「うん。今ジョージが閉めてる」
「偶には掃除しなさいよ」
「ん?うん、偶にはやってるさ」
へらっと笑ってフレッドはグラスに注いだ水を一気に飲み干す。
偶にやっているならもう少し綺麗な気もしないでもない。
魔法でやってしまえば時間もかからないと思うのだけど。
「出掛けるの?」
「アンジェリーナが待ってるんだ」
「そう。上手くいったのね」
嬉しそうに笑ってフレッドは暖炉から消えた。
幸せそうなフレッドは見ているだけで嬉しい。
ジョージは、今どうなのだろう。
私は今ジョージをどう思っているのか。
ジョージの机に置いてある写真立ての中に居る昔の自分。
その写真立ての横に置いてある切れてしまったミサンガ。
皆で撮った写真も飾られていて、笑顔で手を降っている。
「名前」
名前を呼ばれて振り向くとジョージが立っていた。
久しぶりのせいか、少しだけ気まずそうに。
ああ、そうか、と不思議と納得してしまった。
何も言わないジョージとの距離を詰めて、抱き締める。
「名前?」
「困ったわ」
「え?何が?何か大変な事があった?」
大慌てのジョージの表情が想像出来て思わず口角が上がってしまう。
額を押し付けて目を閉じると名前を呼ぶ声がした。
「ねえ、ジョージ」
「な、何?」
「私ね、ジョージの側って落ち着くみたい」
「え、名前、それって」
バッと身体を離して顔を覗き込むジョージに笑ってみせる。
ジョージの目が揺れていて、落ち着かない。
頬を撫でると涙が一粒落ちて思い切り抱き締められる。
耳元で鼻を啜る音がして背中に回った腕に力が込められた。
宥めるように背中を撫でるとまた鼻を啜る音。
「やっと、捕まえた」
嬉しそうに言う涙声が耳元で聞こえた。
(20130327)
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