騎士団の仕事が大体終わり、残りは魔法省に任せる事になった。
そして私の目の前には魔法省のパンフレットが置かれている。
先程まで居たキングズリーが置いていったもの。
魔法省大臣ともなれば大忙しでほんの少しだけ居ただけで慌ただしく帰ってしまった。
パンフレットと睨めっこをしながら溜息を吐く。
「良い話じゃねえの?」
「うん、そうなんだけど」
目を通しながらページを捲ると時々シリウスが覗き込む。
お誘いは有難いしとても良いお話ではあるのだけど、悩んでしまう。
魔法省への就職は元々考えていなかったし。
「どうしようかなぁ」
「やあ名前!」
「あらフレッド、退院したの?」
「やっぱり名前は誤魔化せないなぁ」
ジョージの顔で現れたフレッドは私の隣に座った。
魔法省のパンフレットを覗き込んで顔を顰める。
不満そうに私の顔を見てパンフレットの上に何かチラシを置いた。
「なぁに?従業員募集?」
「俺達の店だよ。このままロニィに手伝わせても良いんだけど、いずれは店舗拡大したいからな」
「それで、私にって事?」
「そう。経営者自ら勧誘だぜ」
ニッと笑ったのは確かにジョージの顔なのにやっぱり何かが違う。
チラシを改めて読むとどうやらわざわざ作ったらしく、私の名前が書いてある。
「考えておくわ」
「えー」
「今すぐ断っても良いのよ?」
「名前!俺をいじめないでよ!」
「ふふっ」
ジョージの姿で来るという悪戯をしたお返しだ。
姿がまだ戻らないという事はポリジュース薬を飲んだのだろう。
ムッとしているフレッドの頬を突ついてチラシをパンフレットに挟む。
フレッドは私に絶対だよ!と念を押す事を忘れない。
「ポリジュース薬はいつ効果が切れるの?」
「来る前に飲んだからまだまだかかるかな。なんで?」
「ジョージの顔でフレッドの笑い方されると落ち着かないのよ。見慣れないし」
フレッドの言う通りならポリジュース薬の効き目が切れるまでまだ結構ある。
腕時計で時間を確認して溜息を吐いた。
どうも別人に見えてしまうから早く効果が切れて欲しい。
やっぱりフレッドとジョージは幾ら似ていたとしても違う。
額を人差し指で突つくとフレッドは不思議そうな顔をする。
「早く戻って欲しいわ。元気な姿が見られないじゃない」
「今度来る時はちゃんと元気になった姿を見せるよ」
「当たり前よ」
つんつん、とフレッドの頬を突つきながら言う。
へらっと笑った顔はまるでジョージのようだ。
「さて、俺は帰らなきゃな。名前、考えておいてくれよ?」
「解ってるわ」
「シリウス、名前を頼むよ」
「はいはい」
ひらひら、と手を振ったシリウスに手を振り返してフレッドは姿眩ましをした。
机の上の魔法省のパンフレットとチラシを手に取る。
魔法省で働いてもフレッドとジョージのお店で働いても楽しいだろう。
けれど、昔少しだけ考えた事のある職業があったりする。
「シリウスは、どうするの?」
「俺は魔法警察に決まった」
「あ、決まったのね。私も決めなきゃ」
「キングズリーは魔法省に来て欲しいらしいけどな」
「…後回しにしたツケだわ」
「まあ、沢山悩め」
シリウスは珍しく微笑みながら私の頭をポンポンと軽く叩く。
目の前でパンフレットとチラシの写真が此方に向かって手を振っている。
(20130327)
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