皆が程良く騒いで程良く眠って、怪我人は聖マンゴへと運ばれていく。
フレッドに付き添いのウィーズリー一家に着いて行くシャロンを見送って、大広間を見回す。
スネイプ先生はいつの間にか大広間から消えていて、マダム・ポンフリーが怒っている。
静かになってきた大広間を目立たないように移動してある扉を開いた。
そこには闇の帝王ヴォルデモートの亡骸が横たえられている。
運ばれた時のまま、手足は床に投げ出されたまま。
頭の側に座って動かなくなったヴォルデモートを眺める。
幾ら名前を呼ぶ事すら恐れられる存在になろうとこうなってしまうと私と何も変わらない。
ヴォルデモートもたった一人の人間なのだ。
トム・マールヴォロ・リドルがこの人の本名。
その名前なら私も監督生名簿で見た事がある。
どんな生涯だったのか、私には知る事は出来ない。
けれど、きっと彼はいつも一人だったのだろう。
「何をしている」
「ちょっと、考え事をしてました」
「…お前にとっては良い存在ではないだろう」
隣に立ったスネイプ先生の首元には白い包帯が巻かれている。
全身真っ黒な中でその色はとても目立つ。
「マダム・ポンフリーに怒られますよ」
「これ位どうという事はない。それより、ブラックをけしかけたのはお前か」
「半分、正解です。全てはダンブルドア先生に聞きました」
舌打ちが聞こえて顔を見上げると案の定顰め面だった。
スネイプ先生らしいな、と思うと自然と口角が上がる。
裏切り者と呼ばれていたけれどそれも変わるだろう。
「ヴォルデモートは、先生から見てどんな人でしたか?」
「何故そんな事を気にする?闇の帝王はもう死んだだろう」
「好奇心、でしょうか」
「…ポッターにでも聞け」
「じゃあ、そうします」
靴の音が響いてスネイプ先生が離れていくのが解る。
ぼんやりとヴォルデモートの顔を見ていたら靴の音が止まった。
「何故、私を助けた?信じていた訳ではないだろう?」
「半信半疑でした。ダンブルドア先生の事もあるし…でも、生きていて欲しかったんです」
再び鳴り出した靴の音は今度は止まる事なく遠ざかっていく。
私は杖を構えるとヴォルデモートに向かって振る。
真っ白な布がヴォルデモートの顔に掛かった事を確認してその部屋を出た。
部屋を出て直ぐ誰かの手が頭に乗ったのを感じて顔を上げる。
見覚えのある黒髪に灰色の瞳。
「シリウス」
「何処行ってた?」
「あ、ちょっと」
「探したんだからな」
髪の毛をぐしゃぐしゃにしながらシリウスは私を撫でる。
腕を掴んで辞めさせるとシリウスは珍しくふんわりと微笑む。
思わずドキッとしたのは何だか悔しいから秘密。
「名前、よく頑張ったな」
「私一人じゃ無理だったわ」
「でも、お前が頑張ったのは俺がちゃんと知ってる」
「…ね、シリウス」
「ん?」
「色々、有難う」
感謝の気持ちを込めてシリウスの手を握る。
その手を引っ張られて思い切り抱き締められた。
子供を褒める親のように頭を撫でられる。
私もシリウスの背中に腕を回して力を込めた。
沢山の感謝がシリウスに伝わるように。
身体を離してお互いの顔を見た途端、同時に吹き出してしまった。
「よし、帰るか」
「ホグズミードまで行かなきゃ」
「いや、その必要はないぜ?」
「え?」
「お嬢様!ご無事でいらっしゃいました!」
ワッと泣きながら駆け寄って来たクリーチャー。
宥めるのに時間が掛かったけれど、クリーチャーなら姿眩ましが出来る。皆で手を繋ぐとバチンと音が聞こえた。
(20130318)
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