珍しく夜中に誰かが来たと思ったら部屋の扉をノックする音がした。
クリーチャーの声がするからきっと知っている人物なのだと解る。
仕方なくベッドから抜け出して扉を開けるとクリーチャーとジョージが立っていた。
「やあ、名前」
「ジョージ?」
「起こした…よね?ごめん」
「…クリーチャー、ココアを二人分お願いしても良い?」
「はい、お嬢様!お部屋にお持ちします!」
クリーチャーにお礼を言ってジョージを部屋へ招き入れる。
ブランケットを持ってきてソファーに座るとジョージも隣に座った。
それとほぼ同時にココアが現れたので手を伸ばす。
程良い温度で指先から熱が伝わっていくのが解る。
「クリーチャーの淹れるココアは美味しいわよ」
「うん、知ってる」
「そういえば、そうね」
何度も来ているし、一時期は此処に住んでいたのだ。
きっとその時にココアを飲んだのだろう。
そんな事を考えながらカップを傾ける。
ジョージも倣うようにカップに手を伸ばした。
けれど飲もうとはせず、ただココアを見つめている。
こういう時のジョージは、どう切り出そうか悩んでいる時。
「名前に…会いたくなって」
「うん」
「来ちゃった」
未だココアを見つめたままのジョージが呟く。
どう返事をしよう考えているとジョージが顔を上げた。
自分のカップを置いて私の手からもカップを奪い、机に置く。
抵抗する間もなく腕を引かれて抱き締められる。
いつもの事なのに、また感じる何とも言えない違和感。
「名前が攫われてから、ちょっとだけ恐いんだ」
「え?」
「俺の知らない所で、名前が傷付けられるのは嫌だよ」
グッと腕の力が一瞬強くなり、直ぐに解放される。
ジョージの指がかなり薄くなったあの日の傷をなぞった。
普段は見えないように服で隠している。
けれど今の服では傷がある首が隠れない。
しまった、と思ってもジョージには見られてしまった。
そんなに苦しそうな顔をして欲しくはないのに。
思わず手を伸ばしてジョージの顔を包む。
「ジョージ、そんな顔しないで」
「…うん」
「怪我をしない、とは言い切れない。でも私、絶対に死なない。まだやらなきゃいけない事があるもの」
「そうだよ…俺への返事だってまだなんだよ」
ジョージの顔を包んでいた手を掴まれて、気付けばまた抱き締められていた。
腕を回して宥めるように大きな背中を叩く。
不安なのは皆一緒で、私だって不安は尽きない。
死なない、と言ってもどうなるかなんて全く解らないのだ。
死を迎えるのは私かもしれないし、ビルやシリウス、リーマスやドーラかもしれない。
「名前」
名前を呼ばれた次の瞬間、目の前にジョージの顔が現れた。
真っ直ぐ真剣な目から逃れる為にジョージの身体を押す。
どうにか距離を取りたいのに、押しても押しても全く動かない。
更に両手を掴まれてしまって身動きが取れなくなった。
「ジョージ、離して」
「嫌だ」
「嫌だって」
「俺の事どう思ってる?少しでも好き?」
その質問の答えは昔からよく解らないまま。
ジョージの事は好きだけれど、それはどの感情か。
フレッドやロンは弟のように思っている。
ジョージに対してだけ昔から解らない。
それはジョージに問われるから、だろうか。
「…よく、解らないの」
「え?」
「ジョージの事は好きよ。大事にも思ってる。でも、それがどういう好きかが解らないの」
「それって…いいや。うん、今はそれで良い」
「良いの?」
「うん、良い」
パッと私の腕を離してジョージはココアに手を伸ばす。
ハッキリした答えではなくてとても曖昧なもの。
嬉しそうなジョージを見るとまあ良いか、と思えた。
(20130310)
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