姿現ししたのはミュリエルさんの家で、着くと同時に涙が零れ落ちた。
あの場所からドラコを助けてあげられない事に、自分が無力な事に。
ドラコが助けてくれた事が死喰い人達にバレませんようにと願う事しか出来ない。


「名前!ああ、名前!無事だったのね!アーサー、シリウスに伝言を送って!」


モリーさんが私を抱き締めるのが解った。
止まらない涙で顔を見る事も声が出ない私を優しく抱き締める。
モリーさんはただ何度も私の頭を撫でるだけだった。
その手が優しくてなかなか涙が止まらない。
落ち着いてくるとやっと私は顔を上げる事が出来た。


「怪我をしてるわね。手当てをしましょう」

「…はい」


モリーさんに促されるままに私は中へと入る。
一気に暖かい空気に包まれて自分が冷えていた事に気付く。
同じだけモリーさんも冷やしてしまった。
その時バタンと扉が開く音がして腕が伸びてくる。
あっという間に誰かに抱き締められていた。


「名前!俺、もうどれだけ心配したか」

「…ジョージ」

「泣い、てるの?何かされた?」

「ジョージ、後にしなさい。名前はまず手当てをしないといけないの」

「俺も行く」


ジョージの手が私の手を包んで誘導し始める。
モリーさんは何も言わないけれどきっと許したのだろう。
案内された部屋に着くと直ぐにソファーに座らされた。
テキパキと首と腕を治療してくれるモリーさん。
二人は私の腕を見てとても傷付いた顔をした。
二人がそんな顔をする事はないのに。
ジョージはそれから私の手を離そうとはしなかった。


「傷は残らないと思うわ」

「有難う御座います」

「良いのよ。今紅茶を持ってきますからね」


そう言うとモリーさんは駆け足で部屋から出て行く。
手当てをする為に捲っていたローブの袖を元に戻す。
するとカサリと音がして内ポケットを探ると羊皮紙が出て来た。
名前は書かれていなかったけれどこの筆跡は見覚えがある。
心配するなとただそれだけ書かれているだけ。
ジョージが覗き込んだ瞬間扉が勢い良く開いてシリウスが入ってきた。


「名前!無事か?」

「シリウス、ごめんなさい」

「お前…泣く程の事されたのか?」

「それは俺も知りたいけど」


私に向けて伸ばされた手はジョージによって阻まれる。
溜息を吐いたシリウスは私の隣に座って頬を摘んだ。
よく見ればシリウスも腕を怪我しているらしく血が出ている。
紅茶を持ってきたモリーさんがそれを見つけて腕を掴んだ。
アーサーさんが入って来たので私は何があったかの説明を始める。
シリウスはベラトリックスの名前に盛大に顔を顰めていた。
ドラコの事を話そうか悩んで、結局素直に話す。
シリウスとジョージはドラコの事は知っているし、私が今此処に居るのはドラコのお陰だ。


「つまり、マルフォイジュニアが居なければ逃げられなかった訳だな」

「うん。シリウス、ドラコは大丈夫かしら?」

「大丈夫だろ」

「私も大丈夫だと思うよ。マルフォイ家ならルシウスもナルシッサも居るだろうからね」


シリウスに同意したアーサーさんの言葉にホッと息を吐く。
喉を潤そうとモリーさんの紅茶を飲むと一気に暖かくなった。
早くチェシャーを送って無事を知らせなければ。
そう思ったのが通じたのかは解らないけれど、チェシャーが飛んできた。
私の肩に乗ると甘えるように身体を擦り寄せては嬉しそうに鳴く。


「名前が着く少し前に着いたんだよ。少し、落ち着かないようだった。ミュリエルが部屋に居なくて良かった」

「え?あ、すみません」


アーサーさんの手ある小さな傷はチェシャーのせいだろう。
構わないよ、と笑ってアーサーさんはモリーさんを連れて出て行く。
出る間際に今日は此処に泊まりなさいと言われて素直に頷いた。


それから私は羊皮紙を貰い、ドラコへの手紙を書くとチェシャーにお願いする。
ダンブルドア先生の呪文があるからちゃんと届く筈だ。
無理なら戻って来るように言い聞かせると一度だけ鳴いて飛び立つ。
チェシャーは賢い子だから、きっと無事に帰ってきてくれる筈。


「お前、もう絶対一人で外に出るなよ」

「うん…ごめんなさい」


ムッとしていたシリウスは溜息を吐いて私の頭を撫でると部屋から出て行った。
きっとシリウスはもっと言いたい事もあるだろうし怒りたい筈。
けれど、何も言わない優しさに感謝してもう一度心の中で謝る。


「ジョージも、ごめんね」

「無事だったから良いよ。助けたのがマルフォイっていうのが気に入らないけどね」


でもマルフォイに感謝しなきゃ、とジョージが呟くと、ずっと顔を顰めていたジョージが柔らかく笑った。




(20130305)
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