油断したと言うのが正しいと言うのだろうか。
両手は使えないし杖も奪われてしまって首筋は痛みを訴えている。
直ぐ戻るから待ってろと言い残して死喰い人は居なくなった。
その際に私を蹴っていく事も勿論忘れない。
クリスマスだからとモリーさんに招待を受けて、シリウスと行く予定だった。
外に出たついでに、とグリモールド・プレイスに寄るとそこに居たのは死喰い人。
大丈夫だからとシリウスを説得して一人で来たのが間違い。
一対一なら勝てると思ったのに背後からもう一人現れたのだ。
そして何処かの屋敷に連れて来られて今に至る。
この間ビルと約束したばかりなのに。
「おや、誰かと思ったらお前かい」
「…ベラトリックス・レストレンジ」
カツ、とヒールの音を響かせながら近付いてくる。
不敵な笑みを浮かべながら私の首元に杖を突き付けた。
わざわざそこを狙った様に傷をなぞる杖先。
必死に歯を食いしばって顔に出さないようにする。
「騎士団のやつだかと言うから愛しい従兄弟様かと期待したんだけどねぇ」
「シリウスは、貴女達なんかに捕まらないわ」
「ふん…ハリー・ポッターの居場所は?」
「知らないわ」
ぐっと杖先が首に沈むのを感じて息苦しさが増す。
ベラトリックスは面白くなさそうに鼻を鳴らすと呪文を唱えた。
その杖先が私の肌をなぞる度痛みを感じる。
痛いのか熱いのか良く解らない。
最後に目に入ったのは嬉しそうに笑うベラトリックスの顔だった。
身体を動かされた感覚に目を開くと其処は見慣れない部屋。
気を失う前に居た部屋とは違う部屋だった。
背後に人の気配があるけれど振り向く気力もない。
ぼんやりと部屋を観察していたら腕が自由になった。
そこで初めて気配の主を見ると見覚えのあるプラチナブロンド。
「ドラコ…?」
「ああ」
「あ、クリスマス休暇ね…という事は此処はドラコのお家?」
「そうだ」
ドラコは真っ青な顔を歪めて私の足に巻かれた縄を解こうとしていた。
既に自由になっている腕を軽く動かすとズキリと痛みが走る。
見ると腕に穢れた血と書かれた傷があり、ベラトリックスを思い出した。
彼女が嬉しそうに笑っていたのは私にこの傷を刻んだからなのだろう。
縄を解き終えたドラコはその傷を見て更に顔を歪ませた。
「名前にこんな傷を付けたくなかった…どうして此処に居るんだ」
「ちょっと、失敗しちゃって」
「馬鹿か、名前は」
ドラコはそう言うと近くにあったローブを私に着せる。
私には少し大きくてフードを被ると顔が隠れそうだ。
首と腕の傷に布が触れると痛みが走り、思わず顔が歪む。
「悪い…治してやれれば良いんだが」
「大丈夫よ。それよりドラコは大丈夫?何もされてない?」
「僕は大丈夫だ」
「良かった。心配だったのよ」
腕を伸ばしてドラコを抱き締めると恐る恐るといった感じに背中に腕が回る。
相変わらずやつれているだけで身体に傷はなさそうだ。
良かった、と何回か繰り返して痛む腕を気にしない事にする。
ドラコは普段学校に行っているし、よっぽど安全だろう。
「名前…名前はまだ僕を信じてくれるか?」
「当たり前じゃない」
「なら、僕は名前を信じられる。時間がない。杖を持って逃げるんだ」
私の手に無理矢理杖を持たせるとドラコは立ち上がる。
腕を引かれて一緒に立ち上がるとフードを被せられた。
予想通り顔が隠れてしまい、前が見えづらい。
少しフードをズラしてドラコを見上げると真っ直ぐな薄い青色の瞳が此方を見ていた。
「逃げるなら、一人で行くわ。ドラコを巻き込めない」
「僕が名前を逃がす」
「そんな事をしては駄目よ。バレたら貴方が大変な事になるわ」
「…名前、言う事を聞いてくれ。今がチャンスなんだ」
ドラコが真剣に言うからついつい頷いてしまい、二人で廊下に出る。
直ぐにドラコと一緒で良かったと思う位マルフォイ家は広かった。
それに、人気のない廊下を選んでいるらしく、出口までは遠回りらしい。
フードのせいで前が良く見えない私にはドラコの手だけが頼りだった。
屋敷の外は真っ暗で、見張りの死喰い人以外人影はない。
見張りの目を盗んで進むとドラコが姿眩ましをする。
手を繋いでいる私も同じで、姿現ししたのは先はキングズ・クロス付近だった。
人影のない路地では私が真っ黒なローブだろうと目立つ事もない。
「名前、逃げるんだ。直ぐ気付かれる」
「ドラコは大丈夫なの?」
「お前が無事ならそれで良い」
「…チェシャーを送るわ」
「ああ、早く行け」
ドラコが繋いでいた手を離して私の背を押す。
開いてしまった距離を戻って一度ドラコを抱き締めてから離れる。
姿眩ましする中で見えたのは優しく微笑むドラコの顔だった。
(20130305)
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