「やっと試験が終わったわ!」

「シャロン寝てたじゃない」

「気のせいよ。ねえ、名前、ビルとチャーリーを探しましょう」


手を引かれて早足で歩き出すシャロンに着いていく。
私は少しフラフラする頭を気のせいだと押しやりながら足を動かす。
昨日少し夜更かしをしてしまったせいに違いない。
校内を歩いていると箒を手にしたチャーリーと出会った。


「今から飛びに行くんだ。二人も来るか?」

「私はちょっと休みたいから、行かないわ。二人で行ってきて」

「チャーリー、私箒取ってくる」


シャロンが箒置き場に走っていくのを眺めていたら頬に大きな手が触れる。
冷たい手だなぁと思ったら真剣な顔のチャーリーと目が合う。
なんだろう、と見つめていたらそのまま頬を軽く摘まれた。


「名前、体調悪いか?」

「試験勉強で疲れただけ」

「無理するなよ?」

「うん」


いつもより優しく頭を撫でられて、頬も撫でられる。
その動作がなんだか擽ったくて私の思考回路は止まった。
戻って来たシャロンの声でハッとなるとチャーリーが心配そうな顔で此方を見ている。


「談話室にビルが居た筈だ。ちゃんと談話室まで行くんだぞ」


チャーリーの言葉に頷いて、私は二人と別れた。
ふわふわする頭でゆっくり歩いていると周りは皆試験が終わった事で浮かれている。
呪文や悪戯グッズがあちこちで飛び交っていてとても賑やか。
当たらないようにと歩いているのだけど何回かスレスレを飛んでいった。


少し休憩、と座り込んで大きく息を吐く。
壁に凭れかかればその冷たさが心地良かった。
早くビルに会いたいのだけど体が上手く動かない。


「名前?」


不意に声をかけられた方を見ると、ピンク色の髪が目に入る。
トンクス、と言うと彼女は此方へ歩いて来て横に座った。


「こんな所で何してるの?」

「ちょっと休憩」

「名前、顔色が良くない。談話室まで送るよ」


トンクスに手を引かれて立ち上がると眩暈がする。
なんとか堪えて歩き出すけれど、これは完全に私の体はおかしい。
ビルに会って色々話したかったけれど早く寝なくては。


談話室の近くまで来ると不意にトンクスが立ち止まる。
なんだろう、と思っていると驚いた顔のビルが目に入った。
あんなに会いたかったビルだけど、今は心配をかけてしまうだけ。
ビルはサッと近寄ってトンクスに変わって私を支えてくれている。


「体調が悪いみたいなんだ。名前、ちゃんと休むんだよ」

「有難う、トンクス」


トンクスは私に手を振って元来た道を歩いていく。
ビルを見上げると額に手が置かれ、そして抱き上げられた。
突然の事に今は動きの鈍い頭で理解するのに時間がかかる。
あんまり力の入らない体で抵抗すると低い声でじっとしててと言われた。


医務室まで所謂お姫様抱っこだった私はきっと普段なら真っ赤になっていた筈。
熱があるだろう体と思考回路ではただただ運ばれるだけ。
それでも相手がビルだという事に少なからず私はドキドキしていた。


マダム・ポンフリーに出された薬を飲んでベッドへ寝かされる。
制服のままだけれど着替える事が億劫だった。
夕食までには治るでしょう、と言い残してマダム・ポンフリーは事務室へと消えていく。
額はまだ熱を持っていて触れたビルの手が冷たく感じる。
ビルは先程から黙ったまま表情も読み取れない。


「ビル…怒ってる?」

「少しね。でも今は寝なきゃいけないよ」


ビルの言葉に素直に頷いて私は瞼を閉じた。




(20120711)
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