シリウスとジョージは相変わらず私に対してとても過保護だった。
外へ出させて貰えず、偶にチェシャーが手紙を運んで来るのを待つだけ。
ダンブルドア先生が掛けた呪文はまだ効いている様でチェシャーは安全だった。
どんな呪文か解らず本を探してみたけれど見つからない。
シリウスも解らないと言うのでダンブルドア先生しか知らないのだろう。


ジョージはあれ以来いつも通りのジョージだった。
ただ私がベランダに出るのを許さず見当たらなければ大声で呼ぶ。
お陰で常にジョージが側に居てシリウスもそれを良しとする。
そんな中喜ばしいニュースはドーラの妊娠位だった。


「名前、出掛けるぞ」

「あら、軟禁はおしまい?」

「隠れ穴に行く」

「隠れ穴?ジョージも?」

「勿論だ。ジョージは?」

「洗濯してるけど」


バタバタ足音を立てながらシリウスが洗濯機の方へ歩いていく。
その音が嫌だったのかチェシャーが飛んできて嫌そうに鳴いた。
ついでなので書いていたドーラへの手紙をお願いすると途端に機嫌が直る。
小さくなるチェシャーを見守っていたら直ぐ後ろにシリウスが居た。


「名前、猫で良いか?」

「え?」

「危ないから、変身術掛けて俺かジョージが抱いてくのが一番だろ?アニメーガスじゃないからな」

「…任せるわ」


シリウスが杖を振るとどんどん視界が低くなっていく。
猫の視界というのは低いんだなぁと思っていたらいきなり体が浮いた。
誰か確認する前に思い切り抱き締められてニャッという声が出る。


「おいおい、抱き潰す気か」

「だって、名前可愛いぜ」

「当たり前だろ。俺が掛けたんだからな」


ニヤニヤと笑うシリウスとニコニコ笑うジョージ。
ジョージに抱かれたままムッとすると尻尾が勝手に動く。
機嫌が悪い時の猫の行動を思い出して何とも言えない気分になった。
その間に二人が姿眩ましをする音が聞こえてくる。


慣れない猫の身体にくらくらしていると懐かしい声が聞こえた。
目を開けるとビルとアーサーさんが立っているのが見える。


「ジョージ!元気で良かった!それにその猫は、名前かな?」

「ああ、念の為にな」

「名前、無事で良かったよ」


ビルが私の頭を撫でて微笑むのを見てドキッとした。
それが嬉しいのか悲しいのかはよく解らない。
ただ、ビルが無事だった事だけは確かに嬉しいと思う。
複雑な気持ちに反応したのか尻尾がふわふわ揺れた。


「じゃあ、名前はこっちにおいで。姿眩ましするから」

「俺も出来るよパパ!俺が連れてく!」

「…まあ、良いだろう。シリウスはビルとで良いかい?」

「構わねえけど」


それぞれに確認するとビルとシリウスが私の頭を撫でる。
二人が姿眩ましをした後、私は猫の身体で二度目の姿眩ましをした。


見慣れない場所だとか聞き慣れない声だとか今はどうでもいい。
今の私はシリウスの変身術で猫になっている。
自分の身体ではないからかどうも感覚がおかしい。
自分の意思で変身するアニメーガスなら平気なのだろうか。
尻尾がジョージの腕を叩いているのは解っているけれど止まらない。
そういえばドラコも変身させられた事があった。
ドラコも慣れない身体でこんな気分だったのだろうか。


ぼんやり考えていたらシリウスが杖を振って私を元に戻す。
当然ジョージに抱かれたままだった私は元に戻ってもそのまま。
所謂お姫様抱っこと呼ばれる格好だと気付いて慌てて降りた。


「ああ、名前やっと顔が見られたよ。此処が今私やモリー達が隠れているミュリエルの家だよ」

「ミュリエル、さん?」

「ビルの結婚式に居ただろう?私が秘密の守人なんだ」


ミュリエルさんを思い出して一人で納得しているとジョージが手を握る。
見上げてみたけれど、ジョージはただ真っ直ぐアーサーさんを見ていた。


「ビルも此処に居るの?」

「いや、僕は貝殻の家に居る」

「貝殻の家?」

「これが住所。緊急の時は来るんだよ」


ビルの差し出した羊皮紙を見て、しっかり覚えてから羽根ペンを借りる。
貝殻の家の住所の裏側に今の家の住所を書いてビルに差し出す。
それを読んだビルはいつもみたいに優しく笑って解ったと頷いた。




(20130226)
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