先程まで騒がしかったテントはなく、リビングに居た。
腕を掴んだのはシリウスで、私の反対の腕はジョージを掴んでいる。
何が起こったか解らず不安が押し寄せて来た。
姿眩ましする前に見えたあれは恐らくヴォルデモート。
「シリウス、皆は…皆は無事なの?」
「解らない。ただ、あいつらにお前を見られる訳にはいかない」
「そんな…ビルは、チャーリーは?」
「落ち着け名前。ビルもチャーリーも大人だ。モリーもアーサーもだ」
シリウスに肩を掴まれて言われたって不安に変わりはない。
ジョージを見ると顔が真っ青で、手が震えている。
そうだ、私はジョージを連れてきてしまった。
この家には忠誠の術が掛けられている。
シリウスと私しか知らないのに秘密の守人である私が連れてきてしまった。
ジョージは安全だけれど家族の安否は解らない。
私だって不安だけれどジョージの方が不安な筈なのだ。
「とりあえず、お前等は此処に居ろ。良いな?」
「シリウス、は?」
「様子を見てくる。ジョージ、お前もだ」
言うだけ言うとシリウスは姿眩ましをする。
不安でドキドキとしているけれど自分に活を入れてジョージの手を引いた。
真っ青で不安そうな顔のジョージをソファーに座らせてクリーチャーに紅茶を頼む。
その間にシリウスの部屋に行って何着か洋服を持ってリビングに戻る。
ジョージにそれを渡すと私も着替える為に部屋に戻った。
チェシャーが居ない事に少しだけ不安を感じながらも急いでリビングへ引き返す。
シリウスの服を着たジョージは頭を抱えて座っていた。
「ジョージ、ドレスローブ掛けておくわ」
声を掛けても反応はないけれど気にせずにドレスローブに手を伸ばす。
するとクリーチャーがやってくれると言うのでお願いする事にした。
隣に座ってジョージの手を握るとそのまま引っ張られて抱き締められる。
不安で仕方がないだろうジョージを宥めるように背中を軽く叩く。
バシンとまた音がして顔を上げると顔に傷を作ったシリウスが居た。
「シリウス!怪我してるわ!」
「平気だ。クリーチャー、薬を持って来てくれ」
クリーチャーは慌てて薬を取りに走り、私はシリウスの腕を引く。
呪文を唱えてからクリーチャーが持って来てくれた薬を塗る。
シリウスは痛みに顔を顰めたけれど仕方がない事だった。
薬を塗っている間にクリーチャーがシリウスの顔に付いた血を拭き取る。
「皆無事だ。ただ、見張られてる。皆尋問されて死喰い人は家を捜索している。誰も死んではいない」
隣でジョージがホッと息を吐き出したのが解った。
私も少しだけホッとして小さく息を吐く。
「シリウス、どうして私を見られる訳にはいかないの?」
「名前が、マグル生まれだから?」
「そうだ。あの場に居たら危なかっただろうな」
「でも、私騎士団のメンバーなのに」
「名前だけじゃない。マグル生まれは直ぐに逃がしたんだ」
苦々しい顔でそう言うとシリウスは私の頭を撫でた。
確かにあの場には私以外にもマグル生まれは居ただろう。
騎士団のメンバーであるのに役に立てない。
自分に不甲斐なさを感じて手を握り締めた。
「そのうちマグル生まれ狩りが始まる。そうなったら、お前はどうせ追われる事になるだろうが」
「名前は、魔女だよ!」
「そんなのは解ってる」
冷静に言い放ったシリウスはとても苦い顔をしている。
どうなるか解らないこの状況はとても不安だった。
(20130226)
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