片付いた部屋を見ながらスネイプ先生の事を考える。
騎士団の会議でも向こう側だと、裏切り者だと言われていた。
私にはどちら側だなんて判断出来ずにいる。
ダンブルドア先生がわざわざ私に話したのは何故だろう。
スネイプ先生を信じてくれ、と、理由は話せないけれど、と。


「名前、入るぞ」


ノックの後に覗いたシリウスは私の隣まで歩いてきた。
マグルの世界に行くというのに旅行用のローブを着ている。
要らないのだと指摘して初めて気付いたらしい。
最悪シリウスは犬に変身すれば問題ないのだけど。


「チェシャー戻って来たか?」

「まだ。でもきっと大丈夫」

「じゃあもう行けるか?」

「うん」


杖を振ってシリウスは服装を整えた。
差し出された手に自分の手を重ねるとバシンと音がする。


新しく借りたのはグリモールド・プレイスから近い小さな一軒家。
仮の住まいだし、ハリーが来るにしても便利だろうとシリウスが決めた。
引っ越しも便利になるのだから魔法って凄いと改めて思う。
家具を配置するのだって杖を振るだけで良いから一人でも出来る。
グリモールド・プレイスより明るい部屋を眺めていたら窓を叩く音がした。


「チェシャー?」


窓を開けるとチェシャーが入ってきて私に足を差し出す。
手紙が括り付けられていて、外してやると止まり木へ飛んでいく。
梟フードをあげるついでに見てみるけれど怪我をしている様子はない。
顔を上げたので撫でてやると少し満足そうに鳴いた。


置き直したばかりのソファーに座って手紙を見る。
表にも裏にも宛名も差出人も書いていない。
開いてみると見覚えのある文字が並んでいた。


読み終えた手紙を持ってリビングに入る。
キッチンでコンロを眺めているシリウスの元へと向かう。


「あ、名前、これどうやって使うんだ?」

「ああ、それはまた教えてあげるわ。それよりこれ読んで」

「は?手紙?」


良いから読んで、と押し付けてシリウスをソファーに座らせた。
その間にコンロでお湯を沸かして紅茶を淹れて私もソファーに座る。
手紙はダンブルドア先生からの物で、スネイプ先生の事が書かれていた。
それは以前詳しく話せないと言っていた詳しくの部分。
どうして今このタイミングなのかは解らない。
けれど、手紙の事を考えるとスネイプ先生は今とても危険な筈。
読み終えたシリウスは眉を寄せて此方を向いた。
スネイプ先生との仲が険悪なのは知っている。
だからこの反応は言ってしまえば予想通りの反応。


「お前はこれ信じるのか?」

「信じるわ。シリウスだって、ダンブルドア先生の字だって解るでしょ?」

「それは当たり前だ」

「私、スネイプ先生を助けたいの。協力してシリウス」

「断る」


シリウスは心底嫌そうな表情を浮かべて紅茶に手を伸ばす。
予想していたけれどいざ目の前で言われてしまうと苦い気持ちになる。
けれど負けられないのでカップを持っていない方の手を握った。
伝わるかは解らないけれど、手から伝わってくれたら良い。


「あいつがリリーを好きだなんて有り得ねえ。穢れた血って蔑んだのはあいつだぞ」

「それは私にも解らないわ。でも、スネイプ先生はハリーを助けた事もあるの。それにドラコだって」

「それはナルシッサにでも頼まれたんだろ」

「お願いシリウス、スネイプ先生を助ける為じゃなくて良いの。私に協力して」


握っている手に力を込めてシリウスを見る。
シリウスは私をチラリと見て溜息を吐いた。
仕方ねえな、との呟きに思わず私は抱き付く。




(20130210)
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