大体全員分のミサンガを梟にお願いして手元に残った二つを届けに来た。
お店は珍しく閉まっていて、諦めようとしたところに上から聞こえたフレッドの声。
顔を上げるとフレッドが二階の窓から降ってきた。
助けてという声に私は慌てて杖を振って落下速度を落とす。
「名前、助かったよ」
「何してるのよ」
「いや、ちょっとジョージの機嫌が悪くてさ」
「喧嘩でもしたの?」
「俺じゃないよ」
苦笑いをするフレッドに首を傾げるととりあえず、と中に案内される。
お休みの店内はがらんとしていてとても静か。
この店内が営業中は混雑する程になるのだから二人は凄い。
元々頭の良い二人に商才があるのだから上手くいくのだろう。
「店のバイトの子居ただろ?」
「一度見たわ」
「あの子ジョージが好きみたいでさ、名前の事をその、何て言うか…大した事ないって言ったんだ」
「それ、もっと色々言ったの?」
「うん。それでジョージはドカンだ」
手で爆発する仕草をしたフレッドに苦笑いを返す。
それでフレッドが二階から降ってくる事に繋がるのは解らない。
私の悪口だなんて流してしまえば良いのに、とも思う。
けれど、私もウィーズリー家の悪口を言われて相手を失神させた事がある。
幾ら幼い昔の事とはいえこれでは人の事は言えない。
「ジョージ、任せても良い?俺が行っても多分どうにもなんないし」
「良いわよ。機嫌が直るかは解らないけど」
「大丈夫さ」
ウインクをしたフレッドに手を振って階段を登る。
ジョージの顔を思い浮かべながら部屋の扉を開く。
聞こえた声に顔を上げると大きな何かが飛んできた。
確認する余裕もなく衝撃に私の身体も吹っ飛ぶ。
薄れる意識の中で聞こえたのはジョージの声だった。
意識が戻って重い瞼を持ち上げるとぼやけて何も見えない。
何度か瞬きを繰り返すとはっきりとしてきた。
身体を起こすと私の額からタオルが落ちる。
ズキリ、と痛みが走る頭を片手で押さえると扉が開いた。
「あ、起きたのか。頭まだ痛い?」
「フレッド…大丈夫よ」
「ちょっと触るよ」
ベッドに座ったフレッドが私の頭に手を伸ばす。
フレッドの手が確かめるように触れて離れていく。
「まだ少し腫れてるな」
「大丈夫、直ぐ治るわ」
「まさか名前が巻き添え食らうなんて思わなかったからさ、ごめん」
フレッドが苦笑いを浮かべながら何が起きたか教えてくれる。
あの部屋にはバイトの子も居て私にぶつかったのはその子。
その子はどうやらジョージによって飛ばされたらしい。
何かまた余計な事言ったんじゃないか、と私の額を撫でながらフレッドが言う。
額はバイトの子がぶつかって腫れたからタオルが乗せられていたらしい。
「ジョージは?」
「下に居る。呼んでこようか?」
「ううん、下に行くわ」
支えて貰いながら立ち上がって部屋を出る。
階段を降りていくと誰も居ないお店の真ん中にジョージが座っていた。
背中しか見えないジョージに近付いて隣に座り顔を覗き込む。
顔を逸らすでもなくジョージはただ床を見つめている。
「ジョージ、私なら平気よ?」
「…ごめん」
「事故なんだから、気にしないで」
「でも」
「ジョージ」
何かを言いかけたジョージの言葉を遮って腕を伸ばす。
ジョージの腕を軽く引いて膝の上に乗せてもジョージはまだそのまま。
ポケットにあったミサンガを結ぶとやっとジョージの目が動いた。
ミサンガを見て何度か瞬きをして私の顔を見て瞬きをする。
不思議そうな顔で少しだけ首を傾げた。
「お守り。これはジョージの分よ」
「俺の?」
「これを渡しに来たの」
ジョージは腕を目の高さまで上げて手首に結ばれたミサンガを見つめる。
髪の色と同じ色の糸で作ったそれは光に当たって少しだけ光って見えた。
小さな小さな声でジョージは有難うと呟く。
腕を上げたままミサンガを眺めていたジョージがふと首を捻った。
「名前…痛い?」
「少しね。でも大丈夫よ」
「ごめんね名前」
伸びてきた腕が背中に回って抱き締められる。
少しだけ打ったところが痛かったけれどジョージには秘密。
(20130201)
199