談話室は寮をあげての大騒ぎ。
私は隅っこでオレンジジュースを飲みながらエクレアをちまちまと食べていた。
パーシーは参加してはいるものの本を読んでいる。
パーシーらしいなぁと眺めていたら怒られてしまった。
ビルの姿が見えないのが私の気分が乗らない理由。
チャーリーは皆のヒーローで騒ぎの真ん中に居る。


「パーシー」

「なんだ?」

「それ面白い?」


背表紙に監督生の文字が輝くその本はパーシーのお気に入り。
何度も繰り返し読んでいるのに、飽きないのだろうか。
私の質問に顔を輝かせたパーシーを見ながらそう思う。


「名前にも一冊贈ったじゃないか。読んだかい?」

「読んだわ」

「素晴らしいだろう!名前なら解ってくれるね?」

「え、えぇ」


私は笑顔が引きつるのが解った。
スイッチの入ったパーシーは気付かなかったらしく熱弁を始める。
しまったなぁ、と思いながらも楽しそうなパーシーは好きだった。
いつもより伸び伸びとしているからかもしれない。


「よお名前!パース!」

「チャーリー。皆は良いの?」

「充分さ」


後ろの騒ぎを見て座ったチャーリーはエクレアを手に取る。
先程沢山お菓子を食べていたと思うのだけれど。
手に付いたクリームを舐めながらチャーリーはそういえばと口を開く。


「ビルから聞いたんだけど、夏休み家に来るって?」

「来るのかい?それなら名前に是非読んで欲しい本が何冊かあるんだ」

「え?あ、あの、私まだビルには返事してない」


途端にパーシーは残念そうな声を出して私を説得しようと身を乗り出す。
チャーリーは不思議そうに首を傾げながら三つ目のエクレアを口に入れている。
確かに誘われてはいるけれど私はまだ決めかねていた。
勿論お誘いは嬉しくて夏休みをビル達と過ごせたら素敵だろうとは思う。


「そういえば、ビルは?」

「僕は知らない」

「クィディッチは一緒に見てたのよ。戻ってくる途中に呼び出されたわ」

「呼び出し?あぁ、そういう事」


五つ目のエクレアに手を伸ばしながらチャーリーが頷く。
私はビルが呼び出された瞬間を思い出して苦い気持ちでいっぱいになる。
チャーリーは気にするなと笑ってくれるけれどどうしても気になってしまう。
何もこんな日に呼び出さなくても良いのに。


「あ、帰ってきたぜ」


チャーリーの目線を追っていくとビルが私達に気付いて手を振っていた。
そのまま此方に歩いて来てビルは隣に座る。
視線を彷徨わせていたらチャーリーと目が合った。
チャーリーは私にウインクをして口を開く。


「モテるな、ビル。呼び出しだったんだろ?」

「参ったよ。三人で代わる代わる詰め寄られちゃって」

「三人?三人に告白されたのか?」

「二人は付き添いの子。断るのが大変だった」


珍しくビルはぐったりとソファーに凭れ込んでいる。
私が気になっていた事は全てチャーリーが聞いてくれてスッキリとした。
今度はビルの様子が心配になってしまい、オレンジジュースをビルに差し出す。
ビルは優しく笑ってお礼を言ってくれる。
そんなに相手は凄い勢いだったのだろうか。


「大丈夫だよ。ちょっと勢いに圧倒されただけだから」


だからそんな顔をしないで、とビルに頭を撫でられる。
恥ずかしいやら心配やらで私の心はとても忙しい。
そんな私の隣でチャーリーは幾つ目か解らないエクレアに手を伸ばしている。
パーシーは先程からビルをジッと見つめていた。


「なんだい、パース」

「名前を家に招待したって聞いたんだ」

「うん、そうだよ」

「今その話をしていた」


ビルがパーシーに向けていた視線を私に向ける。
パーシーの言う通りだと頷くとチャーリーもそうそうと言葉を挟む。


「名前、まだ決まってないって言うんだ。僕としては名前に読んで欲しい本があるから」

「ちょっと黙ってくれ、パース」

「名前、招待は僕だけじゃなくなったね」


ビルとチャーリーは楽しそうに笑うし、パーシーは真剣な顔で此方を見ている。
気が付いたら招待を受けると声にしていて、三人はとても満足そうに笑っていた。




(20120708)
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