賑やかな声が色んなところから聞こえてくる列車の中。
真新しいトランクと、その中にある真新しい教科書達。
かなり重いトランクを引きずりながら通路を歩く。
何処のコンパートメントも賑やかで入りづらい。
明らかに上級生だと解るところは入りづらさは倍だった。


「親戚とか兄弟が居れば、別なのよっ」


重いトランクを引っ張ってその場に立てて少し休む。
寮に入るのだから仕方ないとは思う。
それでも私にはこのトランクは重すぎる。
ふぅ、と息を吐いてトランクを引こうとした時急にトランクが軽くなった。
その原因を確かめる為に振り向く。
そこには背の高い赤い髪の男の子が立っていた。


「大丈夫かい?手伝うよ」


ニコッと笑ってトランクを私の手の中から奪う。
突然の事で驚きながらも天の助けだと思った。
私の返事も聞かずに歩き出してしまうので慌てて着いていく。


「コンパートメントは?」

「あ、まだ決まってなくて」

「君、新入生だよね?じゃあ、案内するよ」


ウインクをして空いている方の手で手招きをする。
後ろを着いていくと彼はあるコンパートメントの扉を開けた。
中には彼と同じ赤毛の男の子が一人で座っているだけ。
男の子は読んでいた本から顔を上げて扉に立つ彼と私を見て眉を寄せる。


「やあ、パース。やっぱり君一人だと思ったよ」

「何か用?」

「この子なんだけどね、一緒でも構わないかい?」


彼の言い出した事に私は驚いて言葉が出なかった。
パースと呼ばれた男の子は頷いている。
それに彼はお礼を言って私のトランクを持ち上げた。
これではもう断る事も出来ない。
確かにコンパートメントは見つかっていなかったし有難い事なのだけど。


「パースが色々教えてくれると思うよ。それじゃあ」

「あ、あの有難う御座います」

「構わないよ」


くしゃり、と私の頭を大きな手が撫でて歩き出す。
その背中に引き止める声をかければ彼は立ち止まり振り返ってくれた。
一瞬不思議そうな顔をして直ぐに何か思い付いた顔になる。


「忘れてた。僕はウィリアム・ウィーズリー。ビルって呼んで」

「あ、名前・名字です」

「名前だね。それじゃあ、ホグワーツで会おう」


笑って今度こそ立ち去る彼の背中を見ながら小さくビルの名を呼ぶ。
私の心はすっかりビルでいっぱいだ。




(20120620)
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