翌々日、医務室のロンを訪ねるとロンは起きていた。
クリーチャーと焼いたスコーンを差し出すと嬉しそうに食べ始める。
授業中な事もあって医務室はとても静か。
ロンはすっかり顔色が良く一見とても元気に見える。


「あら、これもしかして噂のラベンダーからかしら?」

「あ…いや、うん」


あまり嬉しそうな顔をしないロンの表情を見てカードを元に戻す。
これがフレッドとジョージに見つかったらきっと大変な事になるだろう。


「名前、フレッドとジョージには言わないでよ」

「私は言わないけど、あの二人の情報網は広いわよ?」

「ああ、うん。それは解ってる」


ロンはそれは諦めてると言いたそうに肩を竦める。
二つ目のスコーンを口に入れたロンは運ばれてきた昼食に手を伸ばす。
慌てて時計を確認して立ち上がった。


「名前?」

「ちょっと行きたい所があるの。また来れたら来るわ」

「じゃあ、またスコーン欲しいな」

「作ったらね。でもちゃんとお菓子以外も食べなきゃ駄目よ」


顔を顰めたロンに手を振って医務室を出る。
昼食の時間なだけあって大広間の方へ生徒が歩いていく。
この人混みの中から一人を見つけられる自信がない。
かと言って大広間に行くのも大多数の注目を浴びてしまうし。
どうしよう、とその場で考えていたら名前を呼ばれた。
振り返ると女の子を二人連れたドラコが此方に歩いてきている。


「あらドラコ」

「何してるんだ?」

「ドラコに会おうと思って。それより、両手に花ね」


ハッとしたドラコは女の子二人に予定変更と告げた。
二人は何も言わずにパタパタと走り去っていく。
見覚えのない子なのに笑いかけられたのは気のせいだろうか。


「あいつらは…別に何でもない」

「そうなの?」

「…それより、場所を変えよう。落ち着かない」


ドラコの言う通り周囲の視線は此方に向いている。
生徒同士でさえ寮の問題で注目されるのに今の私は部外者。
歩き出したドラコに並んで大広間に向かう生徒の流れに逆らって歩く。


適当に見つけたベンチに座るとドラコは直ぐに俯いてしまった。
最近は会うとドラコは俯いてばかり。
顔を上げて貰おうとスコーンを差し出す。


「これは?」

「私が作ったの。不味くはない筈よ」

「…お前普通は美味しいって言うだろう」


呆れた口調なのにドラコの顔は優しく微笑んでいる。
相変わらずやつれて隈も出来ているけれど、笑うだけで大分違う。
緩む顔をそのままにスコーンを口に運ぶドラコを眺める。
食べてくれるのならドラコの好きなクッキーも持ってくれば良かった。


「美味いんじゃないか?」

「そう、良かった」


もぐもぐと動く口に満足して紅茶を取り出す。
実はこれはモリーさんに淹れて貰った。
私が淹れるよりもモリーさんが淹れた方が美味しい。
飲んでくれないかもしれないのでドラコには秘密。
私の見ている前で紅茶とスコーンを全て完食してくれた。


「名前、有難う」

「どう致しまして。クッキーも持ってくれば良かったわね」

「スコーンで充分だ」

「…これ位しか出来ないもの」

「え?」

「ドラコの力になれるのはこれ位だわ」


顔と同じように青白い手を自分の手で包む。
ダンブルドア先生の言葉が浮かんでは消えていく。
ドラコの身に乗せられているものはとても重い。


「本来は、会わない方が良いんだろうな」

「あら、別にスパイじゃないもの」

「疑われないのか?」

「私は平気。シリウスも味方してくれるわ」


良かった、と微笑むドラコの方が心配なのだ。
言葉の代わりに少し両手に力を込める。


「もし、何か話したい事が出来たらいつでも聞くわ。手紙でも良いし直接でも良いわ」

「…その時は、な」


何となく、ドラコは言わないんじゃないかと思った。
きっと言える事ではないだろう。




(20130126)
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