この時間しか空いていないとはいえ、会えるだろうか。
明日からクリスマス休暇に入るホグワーツはとても静かだ。
休暇に入ってしまうときっとドラコとは連絡が取れない。
だから休暇前に一度だけドラコに会っておきたかった。
スネイプ先生に許可を戴こうと思ったけれど研究室は空っぽ。
仕方なく銀色の鼬を飛ばしたのだけれど返事はまだない。
適当に廊下を歩けば、と思って歩いているといつかの冬を思い出す。
この廊下はいつかセドリックと出会った廊下だった。
セドリック、ちゃんとおめでとうやお疲れ様が言えていない。
セドリックを守ってあげられなかった。
今私の周りに居る人達は何としても守らなければ。
カツンカツン、と音が聞こえたと思ったら誰かが曲がり角から現れた。
プラチナ・ブロンドのとても機嫌が悪そうなドラコ。
その顔は最後に見た時よりもかなり青白くやつれている。
「こんばんは、ドラコ」
「なっ…何故お前が」
「ドラコに会いに来たの。スネイプ先生に許可を戴こうと思っていたんだけど、先にドラコに会えたわ」
スネイプ先生の名前に少しだけドラコの表情が歪む。
あんなにスネイプ先生を尊敬していたのに、今のは気になる反応だ。
けれど敢えてそれには触れずにやつれた頬に手を伸ばす。
触れる寸前ドラコはビクリとしたけれど拒否はしなかった。
ドラコの頬は冷たくて触って解る程以前と変わっている。
「名前…手が温かいな」
「ドラコの頬が冷たいのよ」
「…名前」
私の手を掴んだドラコの手はとても冷たい。
すっかり冷え切ってしまったような、そんな冷たさ。
隈の出来た目は弱々しい印象が強い。
「手紙の、返事をしなくて悪い」
「良いのよ。それよりも、ちゃんとご飯は食べてるの?眠れてる?」
ドラコは返事をせずにそのまま俯いた。
余り眠れていない事は隈で解るし、やつれた頬でご飯を食べていない事が解る。
掴まれている手でドラコの手を握り返して空き教室を探す。
冷たい風が吹く廊下よりは空き教室の方が幾らか良い筈。
適当に見つけた空き教室に入るとやはり廊下よりは少し暖かかった。
杖を振ってランプを用意していると聞こえるドラコの小さな声。
掻き消された声を聞く為にドラコを椅子に座らせて私も隣に座る。
「…僕に、会いに来たっていうのは、本当か?」
「本当よ。手紙には書けない事もあるでしょう?」
そう言うとほんの一瞬だけドラコが私を探るような目をした。
それは本当に一瞬の出来事で直ぐに元に戻る。
気付かない振りをしてプラチナ・ブロンドを撫でた。
私はドラコに言えない事も聞けない事も沢山ある。
ドラコだって私に言えない事も聞けない事もあるだろう。
俯いてしまったドラコの頭を撫でながら出会った頃の事を思い出す。
あの頃のドラコは傲慢で両親の教えに忠実な純血主義の塊だった。
けれど、あの頃のドラコは確かに笑っていた気がする。
今のドラコの方が良いけれど、ドラコにもちゃんと笑っていて欲しい。
「名前」
「なぁに?」
「少しだけ、許してくれ」
そう言ってドラコは私の背中に腕を回して抱き締める。
私も背中に腕を伸ばして宥めるように軽く叩く。
今の私にはこれ位しかドラコの為にしてあげられない。
いつかこの荒れた世の中が落ち着いた時、ドラコもちゃんと笑っていられますように。
(20130122)
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