ホグワーツの生徒が聖マンゴに運ばれたという報せに会議が行われた。
ああでもないこうでもないと結局特別な結論は出なかったのだけど。
慌ただしく帰って行った人と夕食を食べてゆったり寛ぐ人。


今のBGMはアーサーさんとシリウスがハリーについて話す声。
隣に座っているせいで会話は一言一句聞こえる。
何気なくシリウスの飲んでいるグラスに手を伸ばす。
好んで飲む訳ではないけれど、言ってしまえば何となく。
少し残っているワインを一気に流し込む。
最初は美味しいのに後から苦味が広がる。
ボトルから新しく注いで話を聞きながらチビチビと飲む。


段々フワフワとしてきて何だか気持ち良くなってきた。
人肌恋しくなって隣のシリウスに凭れかかる。


「おい、どうした…ってお前呑んだのか?」

「美味しくないわよ、これ」

「ガキにはな」

「ガキじゃないわよ」


シリウスがアーサーさんと何か話してからいきなり立ち上がった。
と思ったらふわりとした感覚に襲われて気付いたら天井が見える。
しっかりしろとシリウスが言っている気がするけれどどうでも良い。
それよりもただ人肌が心地良くて頬を擦り寄せる。


「ほら、ベッドだぞ」


降ろされたのは確かに馴染みのあるベッドだった。
モゾモゾと動いて毛布に潜り込めば段々重くなる瞼。
心地よくて眠たいのに頬を軽く叩かれる。
重たい瞼を少し持ち上げるとビルが居た。


「大丈夫か?」

「ん…大丈夫。眠いだけだから」

「今日は変に素直に喋るな」


おかしい、ビルはこんな風に喋っていただろうか。
けれど優しく微笑むのは紛れもないビル。
重たい手を動かしてビルの手を掴む。
優しく握り返してくれた手は暖かい。
そういえば、シリウスは何処に行ったのだろう。


「ビル、この間はごめんなさい」

「この間?」

「私、まだ子供で」


ごめんなさい、と呟いてもう開けていられそうもない瞼を閉じる。
頬を撫でられてその心地良さに半分意識は薄れていく。
ビルと話したいのにもう眠気がピークで話せそうにない。
せめて、と握った手に力を込めると頬に何かが触った。




ガンガンと痛む頭に目が覚めたけれど動けそうにない。
なんとか体を動かして寝返りを打つと目に入る大きい黒い犬。
どうしてシリウスが犬の姿で居るのだろうか。
昨夜の事を思い出そうとしてみるけれどよく思い出せない。
確か、シリウスのワインを呑んで部屋に運ばれた。
それから先は、ビルが居たような気がするけれど夢かもしれない。


「シリウス」

「…起きたのか」


いつの間にか人間の姿に戻ったシリウスは欠伸をする。
思わず後退るとシリウスは立ち上がって机にある水を飲み出す。
ぼんやり眺めていたらゴブレットが飛んできた。
飲めと言われたので飲むと少し気分がスッキリした。


「シリウス、どうして此処に居るの?」

「はぁ?覚えてないのか?」

「あ…ええと、私何かした?」

「…お前が俺の手を掴んで離さなかったんだろ」


拳を頭に当てられて言われ慌てて謝る。
すると拳は開かれて頭をぐしゃぐしゃにされた。
シリウスの手を掴んで止めると優しく笑う。


「ね、ねぇシリウス、ビル来なかった?」

「…いや、来てねえよ」


ずっと部屋に居たシリウスが来ていないと言うなら来ていないのだろう。
何故だか覚えている頬の感触はやっぱり夢だったのだろうか。




(20130118)
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