モリーさん達が帰ってしまうとグリモールド・プレイスは静かになった。
シリウスは心を入れ替えたように根気良くクリーチャーに接している。
そのお陰かクリーチャーは最近屋敷の掃除をする事が多い。
料理も嫌々ながらも手伝ってくれる事が多いから少し助かっている。
流石は屋敷しもべ妖精だけあってクリーチャーの料理は美味しい。
今も私がベーコンを焼いている横で鍋を掻き混ぜている。


「名前、手紙だぞ」

「え?チェシャーなら此処に居るわよ」

「違う梟だ。ダイアゴン横丁からじゃないか?」

「ダイアゴン横丁?」


首を傾げながらシリウスから手紙を受け取るとクリーチャーが代わってくれた。
手紙をひっくり返すとウィーズリー・ウィザード・ウィーズの文字。
お店からわざわざ私宛てというのが少しだけ封を開けるのを躊躇わせる。
手紙を眺めていたらシリウスが珈琲片手にどかりと隣に座った。


「開けないのか?」

「開ける、開けます。ちょっとだけ躊躇ってるだけよ」


気のない相槌を打ってシリウスは新聞を広げる。
確かもうすぐトンクスとムーディ先生が来る筈だ。
その前に、と手紙を開けて内容に目を通す。


「シリウス」

「ん?」

「私を今すぐ何か動物に変えて」

「は?」

「ああ、私アニメーガスの勉強しようかしら」


訳が解らないという表情のシリウスに説明するのも時間が足りない。
部屋に戻ろうと立ち上がった瞬間ガシリと腕を掴まれた。
ギギギと音がしそうな程ぎこちなく動いた首で捉えたのはニッコリと笑うジョージ。
これは、もしかしなくてもジョージは怒っているかもしれない。
今のジョージと見てふとやっぱりビルと兄弟だな、と思った。


「名前、ちょっと話がしたいんだけど」

「ええと…そうね、此処でも良いかしら?」

「名前の部屋が良い」


有無を言わさず腕を引っ張られた私にシリウスが声を掛ける。
早く戻れよ、と言われてもそれはジョージ次第。


私の部屋に何度も来た事のあるジョージは当たり前のようにソファーに座る。
掴まれている腕を引かれてその隣に倒れ込むように座った。
ジョージはもう笑っておらず、真剣な表情にドキリと心臓が鳴る。


「この間の事だけど」

「あ、あの、ごめんねジョージ」


余裕がなかったとは言え、あんな風に一方的に会話を終わらせた。
反省はしていたけれど謝る機会がなくズルズルと今に至る。
買い物の時も店内のジョージと目が合ったのだけど会わなかった。
恐る恐るジョージの顔を見るときょとんとしている。


「何で名前が謝るんだよ」

「え?」

「俺が謝ろうと思ってたのに」


そう言うとジョージが杖を振ってティーセットを準備しだした。
今度は私がきょとんとする番でぼんやりとジョージの手元を眺める。
ウィーズリー家の子は皆こうなのだろうかと思う程手際が良い。
差し出されたカップからは紅茶のとても良い香りがした。


「確かに、名前に対してちょっと怒ってた。でもこの間は俺も悪かったし、その事は謝ろうと思って」

「…ジョージ」

「なのに、先に謝るなよ」


ムッと唇を尖らせたジョージは私のカップにミルクを注ぐ。
あっという間に紅茶はミルクと混ざって白い渦が消える。
飲めと手だけで催促されて一口飲むとホッとする優しい味がした。


「俺は名前が好きだよ。だから元気がないと何とかしたくなる。でも、この間は、ごめん」

「ジョージ、私もごめんなさい。少し余裕がなかったの」

「…早く俺にすればいーのに」


そう呟いたジョージは何処かから見つけたのかクッキーをかじる。
ごめんね、と心の中で告げてミルクティーを口に運んだ。




(20130114)
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