案の定というか、行かなくては困るから仕方ないのだけど。
辺りの雰囲気と正反対に賑やかなお店の前に立つ。
シリウスはハリーに着いて店内に行くと思ったのに犬の姿で隣に座っている。
偶にお店を出入りする人に撫でられては鬱陶しそうに息を吐く。
大人しいですねや可愛いですねと声を掛けられる私は飼い主に見えるらしい。


耐えきれなくなったのか黒い犬が立ち上がり建物の影に消える。
戻って来たのはいつもとは違うブロンドのシリウスだった。
そんなシリウスに杖を振って瞳の色を変えればパッと見は別人。


「犬は辞めたの?」

「ああ。最初からこうすれば良かった」

「犬になれるからってポリジュース薬を断ったじゃない」


ムッとしてシリウスは腕を組んで凭れかかる。
髪と瞳の色を変えたところで顔が変わる訳ではない。
辺りの女の子の目がシリウスに向けられている。
今のシリウスは病的な手配書の写真とは違って健康そのもの。
純血だからと言って皆が皆そうではないけれどシリウスは整っている。
本人は辺りからの視線なんて全く気にしていないけれど。


「ねえ、恋人は居なかったの?」

「居ねえよ。そんな余裕もなかったしな」

「じゃあシリウスは寂しかったのね」

「喧嘩売ってるのか」


口を開こうとした瞬間ブロンドが目に入る。
やけにキョロキョロしてとても不安そう。
ブラック家で見たその名前は確かナルシッサ。
思わず動いた足をそのままに近付く。
後ろからシリウスが呼び止める声がする。


「おい、名前」

「大丈夫、直ぐ戻るわ」


シリウスを止めて本格的に話し掛けようと近付く。
辺りを見渡しながら歩いているので直ぐに追いつけた。
声を掛けると不安そうに揺れる瞳が私を捉える。
その時足元に黒い犬が近寄ってきた。


「貴女は…?」

「私は、ドラコの友達です」

「ドラコの…ドラコを見ませんでしたか?居なくなってしまって」

「私も探します」


頷いて再び歩き出したナルシッサさんと反対側を向く。
歩き出すと黒い犬は先程のブロンドのシリウスが居た。


「あいつ、あんな顔するのか」

「従姉妹だったわね」

「ああ…俺はあっちを探してやる」


私の頭をぐしゃぐしゃにしてシリウスが歩き出す。


今はそんなに人が多くないダイアゴン横丁。
二人の店から離れてしまうとそれが際立った。
その中に一瞬確かに見えたプラチナ・ブロンド。
見失わないよう走って追いついて手を掴んだ。
振り返ったドラコの目は驚いて丸くなっている。


「名前?」

「良かった。無事だったのね」

「何を…無事?」

「お母様が貴方を探してるわ。何もなくて良かった」


確認するようにドラコの頬を撫でて笑顔を向けた。
ドラコは複雑そうな顔をして私の手を握る。
私が掴んだ筈なのにこれでは離す事が出来ない。
頬を撫でていた手を繋がっているドラコの手に添える。


「僕を探しに来たのか?」

「そうよ。心配だもの。お母様も凄く心配してるわ」

「…ああ」

「行きましょう」


手を引いて歩き出そうとするけれど、ドラコは動かない。
振り向いてどうしたの?と俯く顔を覗き込む。
その表情は泣き出しそうな苦しそうな顔だった。


「ドラコ?」

「名前、どんな事があっても、僕の味方でいてくれるか?」

「そんな事があるの?」

「…例えば、の、話だ」

「味方でいるわよ。嫌って言っても」


まだ俯いているドラコの頭を撫でる。
すると顔が上がったので再度促す。
今度は歩き出してくれたけれど手は繋がったまま。




(20130114)
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