「うーん…消えないわね。聞いてくれば良かった」
ハーマイオニーの片目に残る紫の痣は存在を主張している。
ドラゴンの火傷の痕を消せた薬も効かない。
ガッカリした様子のハーマイオニーに謝る。
「名前のせいじゃないもの。大丈夫、本人達に聞くわ」
「ハーマイオニーの可愛い顔が台無しだわ。ねえ、そう思わない?」
チェスをしているハリーとロンに聞くとロンはぽかんとした。
ロンは複雑な思いを抱えているらしい。
多分ロン本人は気付いていないのだろう。
微笑ましく思う反面少し羨ましくも見える。
「とりあえず、外に出ないから良いとして」
「…名前、元気になったの?」
「え?」
「最近ずっと会ってなかったし、その、ビルの事もあるし…シリウスなんてずっと名前を気にして部屋の前でうろうろしてたのよ」
ハーマイオニーの言葉に返す言葉がなかなか出て来ない。
シリウスが部屋の前でうろうろしていたなんて。
信じられないというか、想像すると少し面白いというか。
存外心配掛けてしまっていた事に申し訳ない気持ちもある。
そんな時扉が開いてフラーが入ってきた。
しまった、と思いながらも私は動けない。
「名前、此処に居ましたか。シリウスが探してます!」
「有難うフラー。私行くわね」
さっさと立ち上がって皆に手を振ってから部屋を出る。
パタンと後ろ手で扉を閉めてから深く息を吐いた。
フラーは悪い人ではないしフレンドリーに接してくれる。
ただ、私の気持ちが邪魔をして苦手意識を勝手に築く。
いつか本当に手放しで祝福出来る時が来たら仲良くなれるだろうか。
「名前?」
「あ、ビル…帰ってたの?お帰りなさい。フラーなら、」
言葉の途中で伸ばされた手に続けられなくなる。
頬を軽く指で摘まれて離れていく。
「元気、ないね」
「そんな事ない、わ」
「そう?」
「うん。私シリウスに呼ばれてるから行くね」
あ、と口を開いたビルの横を通って厨房へ続く階段を降りる。
こんなにもビルから離れたいと思ったのは初めてだった。
あのままビルと話していたら全てが溢れてしまいそう。
それだけは何としても避けて、今はただ自分を落ち着かせたい。
厨房に入った私を見てシリウスが言ったのは酷い顔だなだった。
言い返す気もなく用事は?と聞くと座らされる。
「フラーから用事があるって聞いて来たんだけど」
「チッ…探すなって言ったのに。用事がある訳じゃねえんだよ」
「そうなの?」
「部屋に居ねえから、何処に居るのかと思っただけだ」
フン、と鼻を鳴らしてシリウスは手元の本に視線を落とす。
先程のハーマイオニーの言葉を思い出した。
聞こえるか聞こえないか位の小声で名前を呼ぶ。
あ?と返ってきた返事は機嫌は余り良くない。
「心配してくれて有難う、シリウス」
「ビルを好きでいるの辞めちまえ」
「んー…無理かな」
呆れた様子のシリウスにもう一度お礼を言う。
今度は返事はなかったけれど頭に手を乗せられた。
(20130109)
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